第33話 迷いの森の竜


「それじゃあ、先に進むか」

「はい」



 俺達は森の中を再び進んで行った。しばらくすると、開けた場所に出た。そこには大きな湖があった。水面が太陽の光を反射させてきらめいている。俺はリリアナを背中から下ろす。そして、リリアナと一緒に湖の側まで近づいてみた。水は透き通っていて綺麗だった。俺はしゃがみこんで手で水をすくい上げる。そして、口に含んだ。冷たくて美味しい。

 俺は立ち上がってから、リリアナに言った。



「リリアナも飲んでみな」

「はい」



 リリアナも同じように両手に掬い上げてから、口元へと持っていく。そして、飲んだ。



「美味しいです」

「だろ?」

「はい!」



 リリアナの表情が明るくなる。

 と、その時だった――湖の中から、白い竜が現れたのは。

 俺は思わず身構える。リリアナも警戒しているようだ。



「リリアナ、俺の後ろに隠れていろ」

「はい」



 リリアナが俺の背後へと移動する。そして、俺達の目の前にいる白竜は俺達に向かって話しかけてきた。



「人間か……何の用だ」

「落ち着け、俺だ」



 俺は、竜の姿になる。



「おお、お前は……オーフィアではないか」

「久しぶりだな、ベビアス」

「ああ、そうだな……まさかこんな所で再会するとは思わなかったぞ」

「それはこっちのセリフだな」



 俺は笑みを浮かべる。



「まぁ良い、ついてこい」

「助かるよ」



 俺とクロードラゴニッシュは会話をしながら、その場を離れた。

 それから数分後――



「ここだ」

「随分と大きいな」



 そこは大きな屋敷であった。



「ここは、私の一族が住む家だ」

「一族?……ということは他にもいるのか?」

「もちろんだ。私の一族の他にも、たくさんの種族が住んでいる」

「そうなのか」



 俺は感心する。



「とりあえず、中に入ってくれ」

「ああ、邪魔するよ」



 俺は家の中に入った。内装は豪華ではないが、しっかりと掃除されているのが分かるほどに清潔に保たれている。



「まずは自己紹介からだな。俺の名前はオーフィア」

「私はリリアナといいます。よろしくお願いします」

「うむ、私はベビアス。見ての通り、ドラゴンだ」

「リリアナ……リリアナちゃんか」

「はい、よろしくお願いします」



 リリアナがペコリと頭を下げる。



「よろしく頼む」

「オーフィアが人間を飼ってるとはな」

「飼ってるんじゃないよ、人間をそう悪く言うな」

「ふん、まあいいがそれで、どうしてここに来たのだ?」

「実は道に迷ったんだ」

「ふむ、なるほどな。なんだ、それなら竜の姿になって空を飛べばいいではないか」

「その手が……いや、竜の姿のままだと人間を驚かせるかもしれないからな。人間のままの方が都合がいい」

「そういう事か。まあ……ここは迷いの森だからな、そもそもそういう発想に至れなかった、というのが正しいだろうか」

「ベビアスはどうしてこの家に? まえはどこか別の所にいただろうが」

「私は……人間に追われたのだ」

「ほう?」

「我々の領地に人間がやってきて、何人か討ち取られた。手負いになり逃げているうちに、ここに辿り着いたというわけだ」

「なるほどな」



 人間と竜を比べると、はるかに竜の方が強い。だが、それは単体での話だ。

 竜に対抗できるのが、冒険者というやつだ。何人かの強いものが現れれば、竜を倒すことも可能になる。

 それに、竜の素材は高く売れる。竜を狙う冒険者は多い。

 とはいえ竜の方がはるかに強いはずだから返り討ちにされる人間も多いのだが……そうはならなかったようだ。



「ここに身を隠すならちょうどいい。ここは迷いの森だからな。誰も近寄ってこない。それに……住み心地もよい。竜の領地では縄張りがどうのこうので争いも多いからな」

「そうか……大変なことになったな」

「それで、これからどうするつもりなのだ? もし行く当てがないのであれば、しばらくの間、我が家でゆっくりしても良いが」

「ありがとう。だが、遠慮しておくよ。少しだけやりたいことがあるんでな」

「そうか。ならば仕方ないな」


 俺は小さく息を吐いてから、リリアナのほうを見る。



「リリアナ、そろそろ行こうと思う」

「分かりました」

「世話になったな」

「気にするな」

「何かあればいつでも来てくれ。森の抜け方は教える」

「分かった」

「また会おう」

「ああ」



 俺はリリアナと共に、ベビアスの家を後にした。

 それから数時間後――

 俺達は森の中を歩いていた。日が沈み始めている。もうすぐ夜になってしまうだろう。

 俺はリリアナに聞く。


「リリアナ、大丈夫か? 疲れていないか?」

「はい、大丈夫です」

「もう少しだからな」

「はい」


 俺達は森の中を突き進んでいく。やがて、開けた場所に出る。


 ***

 そうして彼の言う通り進み、俺たちは森を抜けた。



「はぁ~、ようやく出られたな」



 俺は伸びをする。リリアナも嬉しそうだ。



「はい! 本当に良かったです」

「そうだな。さて、次はどこに行けばいいんだっけか」

「確か……街に行けばいいと聞いた気が……」

「そうだったな。よし、早速向かうとするか」

「はいっ!」



 俺とリリアナは再び歩き始める。

 しばらく歩くと、街が見えてきた。


「おっ、見えてきたな」

「はい!」

「だが、ここから先は人間の国の領内だ。リリアナ、気をつけろよ」

「はい!」



 俺はリリアナの手を握る。そして、二人で並んで歩き始めた。

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