第9話 勇者と竜の戦い
そこにいたのは――先日、であったばかりの勇者であった。勇者は突然現れた俺に驚いているようだ。まあ、当然の反応だろうな。
勇者は、俺に向かって剣を構える。
俺は勇者に語りかける。
「貴様が勇者――ミハルだな」
「そうだ……それがどうしたの?」
勇者は警戒しながら答える。
「なら、なぜ貴様はここにやってきた? 魔王を倒すためならここに来る必要はないだろう」
「私は、あなたに会うためにここへ来た」
「俺に? 一体何のために?」
「……」
俺が質問すると、ミハルは黙り込んだ。
「おい、どうした? まさか、俺に怯えてるんじゃないだろうな? だとしたら、今すぐここから立ち去れ。俺はお前と戦うつもりは無い」
「……」
「聞こえなかったのか? もう一度言うぞ? 俺はお前と争うつもりは……」
「私は、貴様が人たちを恐れさせてると聞いた。怖い怖い竜がいると」
「そうか。人間どもには興味はないな。この姿で人里に降りたことはない」
人間体ではよくいくけれども。
「何が故俺と戦おうとする。俺が恐ろしいからか?俺が他の奴らよりも強いからか?」
「違う! 確かに貴方の力は凄まじい。だが、それだけで恐れるはずがない! 私が戦う理由は、もっと別のところにある! 」
「ほう? 言ってみろ」
「私が戦うのは、私が勇者だから! 人々を恐怖から救うのが私の役割だから! 」
「くだらんな」
「……ッ! なんと言われようと構わない! 私は人々を守るために、私は勇者として、私は、私は! 」
「お前が勇者であろうとなかろうと、俺にとってはどうでもいいことだ。お前が勇者であろうが無かろうが、お前がかかってくるのなら、お前を殺すまでだ」
「ならば、私は勇者として、お前をここで倒す!」
「やってみろ。だが、俺も簡単には負けんぞ。お前を殺さない程度に痛めつけてやるよ」
「私は負けない!」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
「来いっ!」
こうして、俺とミハルの戦いが始まった。
まずは、お互いに距離を取る。
「はぁっ!」
先に動いたのはミハルだ。ミハルは俺に向かって斬りかかる。
俺は尻尾を振るった。すると、尻尾が鞭のようにしなり、ミハルの身体を打つ。
「ぐっ……!」
俺は続けて、爪を振り下ろす。ミハルは後ろに跳んで回避した。
「まだまだぁ!」
俺は翼を広げて飛翔する。そして、上から勢いをつけてミハルに飛びかかった。
「喰らえ!」
俺はミハルに向けて口から火を放った。
「甘い!」
ミハルは剣で俺の炎を受け止める。
「おらぁ!」
俺はそのままミハルを押し潰そうとする。しかし、俺の攻撃は失敗に終わった。
「はあっ!」
ミハルは俺の攻撃を弾き返し、俺の鱗に蹴りを入れた。
「ぐぅ……ッ! まだまだ!」
俺は体勢を立て直す。そして、再び翼を広げた。
「さっきの借りを返してやろう」
俺は空中を旋回し、そこから一気に加速して急降下し、ミハルに突撃していく。
「うおおぉーッ!!」
俺は叫び声を上げながらミハルに迫る。そして、すれ違いざまにミハルの腹部に鉤爪を突き刺す。
「ぐは……ッ!?」
俺はミハルの背中に回り込み、尻尾で薙ぎ払う。ミハルは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「どうした? もう終わりか?」
俺は挑発するように言う。
「まだ……終わらない!」
ミハルは立ち上がり、俺に向かって走り出す。そして、俺に剣を振ってきた。
俺は剣を避け、カウンターの要領でミハルに頭突きをした。
「ぐう……ッ!」
ミハルは怯むが、すぐに立て直して剣を構え直した。
俺はミハルに近づき、連続で拳を叩き込む。ミハルは俺の連続攻撃に耐えきれず、膝をつく。
「どうした? もう限界か?」
「くっまだだ……」
膝をつくミハル。
俺は、そこで少し手を止めて、勇者に尋ねる。
「勇者よ。なぜ貴様は旅をする。勇者を倒す旅をする。人のために旅をする理由などないのに」
ミハルは、俺の言葉を聞いて少し考える素振りを見せた後、「分かった。話そう」と言って、理由を話し始めた。
「私は、この世界を救う為に召喚された勇者。私は、この世界を救いたいと思っている。だから、私はこの世界の魔王を倒しに来た」
「ほう。それで、その目的は達成出来たのか?」
「まだだ。だが、いずれ必ず成し遂げてみせる」
ミハルは力強く言い切った。その瞳には決意の炎が見える。
俺はミハルに問いかける。
「それは、何故だ? この世界に思い入れがあるわけでもあるまい? それなのに、どうしてそこまで頑張れるんだ? 教えてくれないか? この世界に召喚された勇者である、一人の人間として、この世界で生きることを決めた男として、その理由を聞かせて欲しい」
ミハルは、一瞬だけ目を閉じて、それから口を開いた。
「私は、この世界に召喚される前、とある病院に入院していた。そこで、私は病に侵されていた。もう長くはないと医者に言われていた。そんな時、私は異世界に召喚され、勇者になった。私は、病気のせいで満足に動くことも出来なかったが、それでも必死に生きようとした。私は、この世界に召喚されたことで、生きる意味を見出すことが出来たのだ」
彼女は、そう断言した。
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