第24話 ユリスの魔法教室

「……ふう」



 ユリスがいなくなったことで、俺はようやく一息つくことが出来た。

 あいつがリリアナと仲良くしてくれるといいんだけどな。リリアナを預けるのは不安だったが、ユリスが一緒ならば問題ないだろう。それに、ユリスはああ見えても面倒見がいい奴だしな。それにしても、何だか不思議な気分だな。ずっと独りぼっちで過ごしてきたはずなのに、今では家族がいる。

 俺は今まで、ずっと独りぼっちだった。誰かと一緒にいることがこれほど楽しいものだとは思わなかったな。

 ユリスとリリアナが帰って来た時の為に、料理を作っておくことにしよう。せっかく来てくれたんだから、精一杯もてなしてやりたい。

 俺はキッチンへと向かうと、腕まくりをして気合を入れた。



「さて、今日は何を作ろうかな。ユリスは肉が好きみたいだから、ステーキでも作ってみるか。リリアナは甘い物が好きだと言っていたし、デザートを用意しておくか」



 こうして、二人が来るのを待つことにした。



 ***



「さてそれではリリアナちゃん、二人だけで特訓するわよ」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「うーん……そうねぇ……」

「ど、どうかしましたか?」

「ううん、何でもないの。気にしないで」

「はぁ……」

「それじゃあ、始めるわね」

「はい!!」



 ユリスはリリアナに魔法の基礎を教え始めた。



「魔法というのは、大きく分けて二つの種類に分けられるの」

「二つですか?」

「ええ。一つは攻撃魔法。もう一つは補助魔法」

「なるほど」

「攻撃魔法はその名の通り、敵にダメージを与える為の魔法。例えば炎を飛ばしたりする魔法とか、氷の礫をぶつける魔法とかがそれに当たるわ」

「へぇ~」

「それに対して、補助魔法は味方を援護したり、敵を弱体化させたりといった効果を持つ魔法なの。回復魔法も補助魔法の一種ね」

「な、なるほど」

「まずは基本的なことから覚えていきましょう」

「はい、わかりました」「よし、いい返事ね。じゃあさっそくだけど、魔力を感じ取るところから始めてみようかしら」

「はい」

「目を閉じて、自分の中に意識を向けるの。そうすればきっと感じ取れると思うわ」

「やってみます」



 リリアナは言われた通りにしてみた。すると、何か温かいものを感じることが出来るようになった。



「な、なんでしょうこれ?」

「それが魔力よ。今はまだぼんやりとした感覚しかないかもしれないけど、慣れればもっとはっきり感じられるようになるわよ。その状態を維持し続けるのがコツよ」

「は、はい! 頑張ります!」



 リリアナは頑張っているようだ。だが、まだ上手くいかないらしい。



「む、難しいです……」

「最初は誰でもそんなものだから、焦らずにゆっくりとやっていきましょう」

「は、はい」



 ユリスはリリアナに魔法の基本を教えると、今度は実戦形式での訓練を始める。



「次は実際に魔法を使ってみましょうか」

「はい!」

「まずは基本の魔法から練習していきましょう。火球を飛ばす魔法と水弾を撃つ魔法があるけれど、どちらからいくわか?」

「えっと、じゃあ火の魔法から教えてください」

「わかったわ。それじゃあまずは手のひらに魔力を集中させるの」

「はい」



 ユリスはリリアナの手を取ると、優しく包み込むようにして握った。



「あっ」

「どうしたのかしら? もしかして、私の手が冷たかった?」

「いえ、そうじゃないんです。ちょっとびっくりしたというか、恥ずかしかったというか」

「ふふ、そう」



 ユリスは笑みを浮かべた。



「さぁ、魔法を使う時の注意点を説明するわよ」

「はい」

「魔法を発動するには詠唱が必要なんだけど、無詠唱でも発動出来る人はいるわ。ただ、その場合だと威力が弱くなったり、魔法の制御が難しくなったりするの」

「そうなんですか」

「まぁ、基本的には詠唱した方が楽なんだけどね」

「なるほど」

「魔法には属性があって、基本的に火・風・地・水・光・闇・聖の七つに分類されるわ。他にも特殊な魔法はあるけど、今は説明しなくても大丈夫よね」

「はい」

「魔法にも階級が存在するの。下級魔法・中級魔法・上級魔法・最上級魔法・伝説級魔法・神話級の六段階あるわ」

「そんなに種類があるんですか!?」

「ええ。だから、それぞれの魔法に適した戦い方が必要になるの。たとえば、私が使っている魔法は闇属性の魔法だから、主に相手の精神を惑わすような使い方をしているの。他には、敵の武器を腐食させたりするなどもあるわ」

「凄いんですね」

「私なんかまだまだよ。お父さんなら、この程度のことは簡単に出来ていたはずだから」

「パパはやっぱり強いんですね!」

「そうよ。あいつは最強の竜なんだから。私なんて足元にも及ばないくらいにね」



 ユリスは少し寂しげな表情を見せた。



「さて、そろそろ休憩にしましょうか」

「はい」



 リリアナは地面に座り込んだ。



「疲れたかしら?」

「はい、正直に言うとかなり」

「魔法は体力を消費するから、あまり無理はしないこと」

「はい」

「リリアナちゃんは、これからどんな大人になりたいと思っているの?」

「私は、強くて優しい人になりたいです!」

「どうして強くなりたいと思ったの?」

「私を助けてくれた人がいて、その人に少しでも近づきたくて」

「そうなんだ。……じゃあ、リリアナちゃんがピンチになった時は、リリアナちゃんを助けた人が助けに来てくれるかもしれないわね」

「本当ですか? それは嬉しいな」

「ええ。だから、強くなっておきなさい。強くなれば、それだけ可能性が広がるのだから」

「はい!!」


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