第23話 魔法の鍛錬

 それから、リリアナに魔法の基礎を教えた。

 すぐにコツを掴み、簡単な魔法なら扱えるようになった。



「よし、リリアナは筋が良いな」

「そ、そうでしょうか?」

「ああ。このまま続けていれば、きっと強くなれるさ」

「はい!」



 嬉しそうに笑う。本当に可愛い子だな。



「ところで、リリアナは何のために強くなりたいんだ? やっぱりミハルさんみたいになるためなのか?」

「それもありますけど……一番は、パパを守るためです!」

「俺のため?」

「はい。だって、私はあなたの子供だから」

「はは、嬉しいことをいってくれるじゃないか」

「えへへ……」



 今度は照れたような笑みを浮かべた。




「ところで、リリアナの得意な属性はなんだ?」

「えーと……わかんないです」



 おっとこれは当然だな。魔法を使えないのに知っているはずがない。



「それじゃあ、調べてみるか」



 ***



「それで、私を呼んだって訳?」



 呼んだのは、ユリスだ。



「俺は属性の調べ方なんて知らんからな。お前なら知ってるだろ?」

「そりゃ、知ってるけれど……全くもう」



 呆れたような表情を浮かべながらも、どこか楽しげな様子のユリスだった。


「よろしくお願いします!」



 リリアナはわくわくしながら嬉しそうに言う。



「で、どうすればいいんだ?」

「簡単よ。こうするのよ」



 ユリスはリリアナに向かって右手を前に突き出すと、呪文を唱えた。

 すると、ユリスの掌の上に小さな魔法陣が現れた。



「おお……凄いな」

「ふふん♪ こんなものよ」



 ユリスは自慢げに胸を張る。



「これで、リリアナの適性がわかるのか?」

「ええ。彼女の魔法の属性は……闇と火ね」

「闇か……意外だな」



 あんなにやさしいのに。



「あら、それはどうかしら? 案外、闇の適正がぴったりなのかもしれなくてよ? 意外と根は黒いかも」

「そうかなあ」

「……むっ」



 リリアナが少し膨れている。そりゃそうだ。実は黒いなんて言われて怒らない奴はいないだろう。ユリスは意地悪だな。



「あははは……ごめんなさいね、リリアナちゃん。冗談だから許して頂戴な」

「ううん、大丈夫だよ」



 リリアナが笑顔で答える。



「そう、よかったわ」



 ユリスはほっとしたように息をつく。



「それで、属性のはなしですけれども」

「おう、そうだな」



 忘れていたわけじゃないぞ? ただ、二人の会話が面白くて聞き入っていただけだからな?



「リリアナちゃんは、魔法はどんなものが使いたいかしら?」

「えっと……私は……あの、できれば攻撃系の魔法がいいんですけど……」



 ユリスの質問にリリアナがおずおずと答える。



「あら、どうして? 魔法は便利なものだから、回復とか補助系のほうがいいと思うのだけれど」

「いえ、私はやっぱり戦う力が欲しいです」

「そう……わかったわ」



 ユリスは納得したようで、それ以上は何も言わなかった。

 そして俺の方を向いて話しかけてくる。



「あなたとしては、どういう風に教えればいいと思っているのかしら?」

「そうだな……まずは基礎的なことを徹底的に叩き込むべきだろうな」

「なるほど……確かにその通りかもしれないわね」



 ユリスも俺の意見に同意を示した。



「ねえ、オーフィア」

「ん? どうしたユリス」

「この子のことなのだけれど……」



 そう言って、ユリスが視線を向けた先にいるのは……もちろんリリアナだ。



「この子のことは私に任せてもらえないかしら?」



 突然何を言っているんだこいつは。一体どういう風の吹き回しだ?

 まさかとは思うが、こいつロリコンなのか!? だとしたら危険だな。娘に近づく男は排除せねばなるまい。男じゃないけれども。だが、俺が警戒していることに気づいたのだろう。ユリスは慌てて弁解し始めた。



「ちょ、ちょっと待ちなさい! 別に変な意味で言ったんじゃないのよ? 誤解しないでちょうだい!!」

「本当か?」

「ええ。ただ、この子は私の娘のような存在なの。だから私が面倒を見るべきだと思うのよね」

「ふむ、そうか」

「ええ。それに、私はあなたに恩返しがしたいの」

「恩返し?」

「そう。あなたのおかげで私は救われたの」

「そんなことは無いだろう。俺はユリスを救ったつもりはない」

「いや、救われたわ。あなたが居なければ私は死んでいた。そして、あなたのおかげよ」

「俺は自分の為にやったことだからな。感謝されることはしていないさ」



 俺は自分の都合で動いたに過ぎないからな。ユリスが俺に感謝する必要など無いはずだ。だが、ユリスは首を振る。



「それでも、私はあなたにお礼が言いたいの」



 そう言われると何も言えんな。

 まあ、本人がお礼を言いたいというのなら、好きにさせてやろうじゃないか。

 ……しかし、大丈夫かね?



「よ、よろしくお願いします!」



 リリアナは緊張しているようだ。無理もないな。ユリスは結構怖いところがあるしな。



「リリアナちゃん、よろしくね」



 ユリスは優しい笑顔で挨拶をする。……少し気持ち悪いな。



「は、はい! こちらこそ、よろしくおねがいします!!」



 勢いよく、そして深々と頭を下げる。



「ふふ、いい子ね」



 そういってリリアナの頭を撫でると、微笑みながら言う。



「それじゃあ、早速始めましょうか」



 そういってユリスはリリアナを連れて家から出て行った。

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