第13話 頼み事



「ぐぅぐぅ……」

「すやすや」


 ミハルさんとリリアナは二人で一緒に眠っている。

 長旅で疲れたのだろう。かなりぐっすりだ。

 二人とも可愛い寝息を立てている。

 ミハルさんはリリアナに抱きしめられて、ちょっと苦しそうだな。

 でも、その表情は幸せそうな感じだ。

 俺は二人の頭を優しく撫でる。すると、二人は気持ちよさそうに微笑む。

 ……こんな普通の女の子に勇者なんて責務を課すだなんて。世界は残酷だな。この子はまだ子供なのに。

 辛いことが多すぎる。この子に少しでも安らぎを与えてあげたいな。……この子の心を救える人は現れるだろうか? この子が本当の意味で笑えるようになる日が来ることを願わずにはいられないな。

 ……だというのに、この子は一人だ。この子をだまして、一人にさせたやつがいる。俺にとってこの子はもう、妹のような存在だからな。

 ……少し深入りしすぎたか。でも、ほっとけないんだよね。……この子の心の傷はどれほど深いものなのだろうか。……俺がこの子の心を守ってあげよう。

 それが、せめてもの俺が出来ることなきがした。

 真夜中、俺は翼をはためかせ空へ飛んでいく。

 向かうのは――リリスのところだ。

 ***



「……あら?」



 リリスの城。彼女は突如現れた気配に、少し表情を変えた。



「オーフィア? 珍しいわね」



 リリスは扉の前に立っているオーフィアの姿を見る。

 彼はリリスの前に立つ。そして真剣な眼差しで彼女を見つめていた。

 その視線の意味を理解して、リリスも真剣な眼差しを彼へ向ける。

 やがて、彼の口が開く。



「よう、久しぶりだな」

「最近会ったばかりでしょう? 夜はいつも起きてるからいいけれども、何の用かしら?」

「お前、人間界にコネがあったよな」

「ええ、いつも人間体でそこら辺をさまよい歩いているから。こう見えても結構な立場なのよ? 意外と」

「そんなお前に頼みがある」

「あら?」



 リリスは眉をひそめる。



「ある人を探してほしい」

「ふーん、私ならそれくらいできなくもないけれども。でも、ただとは言わないわよね?」

「お前の頼みの一つや二つ聞いてやるよ。それで、いいか?」



 リリスはニヤリと笑う。

 その様子に、俺もつられるように笑みを浮かべる。

 リリスは俺に向かって言う。

 リリスは腕を組み、不敵に笑い、言葉を放つ。



「それで、相手はなにかしら?」

「勇者って知ってるか?」

「あんま手はだしたくないわねえ。まあ、そういうのは味方にしてしまえばいいのよ。オーフィア、あなた、勇者についてどこまで知っているのかしら?」

「勇者ってのがどういう存在なのかは大体把握しているつもりだ」

「そう。それで?」

「ミハルという少女は一人パーティらしいな」

「あああの子……少し大変な境遇みたいね」

「知っているのか、なら話は早い。そいつをだました奴らを探してほしい」

「……ほう? あなたがそんなことに口を出すだなんて」

「ちょっと縁があってな」

「いいでしょう。勇者に恩を貸すことになるし、ぜひ探して上げましょう。で、ぶっ殺すの?」

「そうなるかもしれんな」



 リリスはにやりと笑う。



「そういうの嫌いじゃないわ」

「じゃ、頼む」



 そう言い残し、俺はその場を去る。

 リリスは俺の後ろ姿を見ながら呟く。



「それにしても……あの子ったら……。まあいいわ。任せておきなさい」



 俺は空を飛ぶ。

 彼女に、意思を託して。

 ***

 次の朝。目を覚ますと、目の前には美少女の顔がドアップで映っていた。



「うお!?」

 驚いて飛び起きる。すると、「きゃっ」という声と共に何かがベッドの下に落ちる。



「いたた……」



 それはリリアナだった。どうやら落ちてしまったようだ。痛かったようでお尻をさすっている。その姿がとても可愛らしく、ついドキッとして見入ってしまう。

(……何を考えているんだ俺は)

 自分の思考に疑問を抱く。しかし、何故か彼女の顔から目が離せない。

 すると、ミハルさんがこちらに気づいた。



「あっ、おはようございます」

「お、おう、おはよう」

「よく眠れましたか?」

「あ、ああ、おかげ様でな」

「よかったです」



 にっこりとほほえむミハル。



「……」

「どうかしましたか?」



 不思議そうに首を傾げるミハル。



「いや、何でもない」

「そうですか。では、朝食の準備をしてきますね」



 ミハルは立ち上がり部屋を出て行った。

 俺はミハルが出ていくのを確認してから、大きく息をつく。



「ふぅ」



 夜中、出かけていたのはばれていないかな。

 ……まさか俺もあんなことを考えているとは思わなかった。自分で自分が恐ろしく感じる。

(気を付けないとな)

 そう心に決めながら身支度を整える。



「オーフィアさん!」



 突然、ミハルが部屋に入ってきた。



「おっと、悪い、着替え中だったかい? 悪かったな、ノックもせずに」

「いえ、大丈夫ですよ」



「ところで、なんか用事でもあるのかい?」

「はい! 実は、お願いしたいことがありまして」「なんだ?」

「はい!」


 ミハルは笑顔で言う。


「私に料理を教えてくれませんか?」


 ミハルの言葉に俺は驚いた。


「料理を?」


 ミハルはコクッとうなずく。


「はい! ちょっとレパートリーを増やしたくてですね……元の世界の料理も、あんまり覚えてないですし」

「いいだろう。俺もいくつか現代料理を再現しようと頑張ったからな。そのくらいはしてやるさ」



 こう見ると、普通の女の子なのに。

 ああ。なんてこの世界は非道なんだ。

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