第14話 待ち合わせ

 それから、しばらくしてミハルさんと別れる事になった。



「それではしばらくありがとうございました」

「いいってことよ」

「ありがとうございました! 楽しかったです!」



 リリアナが、にっこりと笑う。

 ミハルさんはペコリとお辞儀をする。



「では、またいつか会いましょう。さようなら」



 ミハルさんは手を振り去って行く。俺達もまた手を振って返す。

 ミハルさんの姿が見えなくなった頃合いを見てから、リリアナが俺に話しかけてくる。



「ねぇ、パパ」

「ん? なんだ?」

「どうしてミハルちゃんには優しくするんですか? 出会ったばかりっぽかったのに」

「ん?そうだなぁ。ミハルさんが昔の俺に似ていてな。ほっとけなかったんだよ」

「昔? パパにもそんな時代があったんだ」

「当たり前だ。……まぁ、今はこんな感じだけどな」

「えへへ、確かに今のパパからは想像できないかも」

「だろ? でも、そういう時期があったんだ」

「ふーん」



 リリアナは興味深げに相づちを打つ。



「ミハルちゃんはどんな子だと思いました?」

「んー、元気で明るい子だな。それと優しい」

「へぇ、そうなんだぁ~」



 リリアナはどこか嬉しそうに微笑んでいる。



「あと……強いな」

「強い?」

「ああ、心が強いよ。あの子は」



 俺はそう言って、ミハルさんの背中を見つめる。

 その小さな背に、どれ程の悲しみを背負っているのだろうか。……きっと、誰にもわからないのかもしれない。……それでも、せめて俺だけは守ってやりたいと思う。…………この感情は一体なんなのだろうか。


 ***

 ミハルさんと別れた後、リリアナと二人で町を歩いていた。

 リリアナが俺の服の袖を引っ張る。



「パパ、あれは何?」



 リリアナが指差した先には、大きな建物があった。



「ん? ああ、ギルドだよ」

「ギルド?」

「まあ、簡単に言えば何でも屋みたいなものだな。依頼を受けて、それを解決するっていう仕事場だな」

「なんでもやってくれるの?」

「まあ、大体な。ただし、依頼主が犯罪に関わっている場合は別だがな」

「へぇ、面白そう」

「まあ、機会があれば行ってみるといい。ただ、お前はまだ子供だからな。もう少し大きくなったら一緒に行こう」

「うん!」



 リリアナがにこっと笑う。



「そういえば、ミハルさんが言っていたんだけど、最近、魔族が暴れているらしいな」

「え? 魔族が? そんな話聞いたことがないけど」

「そりゃあ、そうだろうな。まだ噂程度にしかなっていないしな」

「そうなの?」

「ああ、魔王軍の仕業だとか、魔物の大群が現れたとか、色々言われているが、どれも確証がないらしい」

「ふーん」

「俺が思うに、これは誰かが裏で糸を引いてるんじゃないかと思っている」

「誰が?」

「それがわかれば苦労しないさ」



 俺は肩をすくめる。



「ま、そういうわけだ。魔物が現れたらすぐに俺に知らせろ」

「わかった。……ねえ、パパ」

「ん? どうした?」

「もしもの話なんだけど、もし、私達がピンチになった時は助けてくれるよね?」



 不安そうに見上げるリリアナ。



「当然だ。娘を助けるのは親として当たり前のことだからな」

「そっか」



 リリアナが安心したようにほほ笑む。俺はリリアナを抱きかかえる。そして頭を撫でてやる。



「ちょっ!? パ、パパ!?」

「嫌だったか?」

「う、ううん、全然!むしろ嬉しい!」



 顔を真っ赤にして照れるリリアナ。



(可愛いな)



 思わず抱きしめたくなる衝動を抑えつつ、そのまま歩く。



「リリアナ」

「何?」

「絶対に守るからな」

「う、うん」



 恥ずかしそうに俯くリリアナ。俺はその姿を見て自然とほほが緩む。



(ああ、可愛いな)



 俺はそう思いながら、しばらく歩き続けた。



 ***




「ちょっと、そっちで待ってろ」

「うん!」



 リリアナは嬉しそうに返事をして駆けて行く。俺はその後ろ姿を見ながら小さく息をつく。



(本当に素直な良い子に育ったもんだぜ。俺の教育の賜物だな)



 俺はそう考えながらニヤッとほほ笑んだ。

 そして、俺は裏路地に向かっていく。

 待ち合わせをしているのだ。



「……来たか」

「よう、お前か。奴が見つかったって聞いたが」

「ああ。ギルド側でも調査はしていたが……ようやく上がやる気になってくれたのでね。やっと見つかったよそれで、お前に伝えろとのことだったが」

「なんだ?」

「どうやら、近く町にいるようだ」

「ほう、それは朗報だな」

「ま、そういうことだ。……くれぐれも、騒ぎを起こすなよ」

「わかっている」



 俺は、それだけ言い残して立ち去ろうとする。すると、男に呼び止められる。



「おい、報酬を忘れていないだろうな?」

「ああ、勿論だ」



 俺は懐から金の入った袋を取り出す。



「これが今回の分だ」

「ああ、確かに受け取った」


 男は中身を確認する。


「では、また頼むぞ」

「ああ、任せておけ」


 俺はそう言ってその場を後にする。

 ……さてと、見つけたぞ。

 すこし、出会ったばかりの人間に過保護気味な気がするが……だが、何もしないわけにもいかないだろう。

 さてと、どうやって接触するか。

 どのような、末路を負わせてやろうか。

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