第4話 お絵描きお絵描き
俺は、自分の家に帰ってきた。……ユリスを連れて。
「お帰りなさい、パパ!」
家に帰るやいなやリリアナが出迎えてくれた。満面の笑みを浮かべながら。……やはり可愛い。いや、わかってはいたのだが改めてみると破壊力が半端ないな。俺の心臓が高鳴っていくのを感じる。
「おう、ただいま」
「あの……その人は?」
「あらあら、どうもー」
ユリスがニヤニヤしながら言う。
「ああ、この子は……」
「初めまして! リリアナって言います!これからよろしくお願いしますね!」
リリアナは満面の笑みを浮かべながら言った。
「んー私はユリス。よろしくねーへぇ、リリアナちゃんっていうのかぁ。かわいい名前だねぇ」
「はい! ママにもつけてもらったんです! パパからもつけてもらったんですよ!」
えっへんと胸を張るリリアナ。……そんなことまで言わなくていいんだよ……。
「ふぅん……じゃあリリアナちゃんのことはパパちゃんに任せるよ」
「はい!任されました!」
だれがパパちゃんだよ。まあいいか……。
「それでーリリアナちゃんに頼みがあって―」
「はい? なんですか?」
「じっつはねー君の絵を描かせてほしいんだー!」
「え!?」
驚いた顔を見せるリリアナ。
「ダメかなぁ?」
「いえ! いいですよ!」
よかった。あっさりOKしてくれた。
「ありがとう! それじゃあお部屋で待っててくれる?」
リリアナは素直に返事をする。
「はいっわかりました!」
リリアナが二階へと上がっていく。
私はユリスと向き合う。
「それで、どうするの?」
「どうするもなにも描くに決まってんじゃんーちょっと借りるからねー」
そう言ってユリスはリリアナの部屋へと入っていった。
「はぁ、仕方ないな。俺も行くか」
俺はため息をつくとリリアナの後を追った。
「失礼しまーす」
ユリスは部屋の中に入ると、すぐにスケッチブックを開いた。
「おぉ、ここがリリアナちゃんのお部屋かぁーいい匂いがするなぁ」
くんくんと鼻を鳴らしながらユリスは言った。
「はは、そりゃどーも」
「ふむふむ、いい素材だねぇ」
「おい、変なことはしないだろうな?」
「してないよ。ただ見てるだけだって」
「ほんとだろうなぁ?」
「うん、本当だってば」
「……まあ、いいだろう。だが、何かあったらすぐ止めるからな?」
「分かってるって。う~ん、まずは何から描こうか」
そう呟きながらも手は動かし続ける。そして数分後、一枚の紙に描きあげた。
「どれ、見してみ」
俺はユリスが描いた絵を見ようとする。
「ダメ、まだ完成じゃないから」
ユリスはそう言って絵を隠す。
「はぁ!? どういう事だよ」
俺は思わず声を上げる。
「もう少しで出来上がるから、それまで待ってて」
「うぅ~」
俺は渋々待つことにした。
「うーん、あと少しなんだけどな」
「どうした? なんか問題でもあったのか?」
「ん?ああ、違うよ。そういうわけでもない」
「ならいいんだが」
「わくわく」
リリアナが、椅子にすわって俺たちをじっと見ている。けなげだ。
「よーし出来た」
俺はユリスの手元を覗き込む。するとそこには、とても上手に描かれたリリアナがいた。
「おお、これは凄いな」
「でしょ? 私の才能はすごいんだよ」
「ああ、そうだな」
「えへへ」
ユリスはとても嬉しそうな顔をしている。……ユリスがこんな風に笑うのは珍しいな。
「よし、これでいいだろう」
「お疲れさん」
「いや、これくらい大したことないわ」
俺達はユリスが絵を描き終えるとリビングへと向かった。
「はい、リリアナちゃんお待たせー」
「うわぁ! これ私!?」
リリアナは目を輝かせている。
「そうだよ。どう?気に入った?」
「はい! 気に入りました!」
「そっかそっか、それは良かった」
ユリスは笑顔で言う。
「それで、報酬なんだけどさー」
「あ、はい! なんです?」
「えっとね、私の事を『お姉さま』と呼んでほしいんだー」
「え? それだけでいいんですか?」
「もちろん!」
「ええと、分かりました。お姉さま」
リリアナは戸惑いつつも、ユリスのことをお姉さまって呼ぶ。
「あはは、やっぱりいいなぁ」
ユリスは満足げな表情をしている。
「あの、お姉さまっ」
「ん? 何だい?リリアナちゃん」
「私も絵を描いてみたいです」
「そっかそっか、いいよ。教えてあげる」
「はい!お願いします!」
「よーし、それじゃあ始めるよ」
こうしてユリスによるリリアナへの絵の描き方講座が始まった。
「はい、リリアナちゃん。これ使ってみて」
「これ、何ですか?」
「これ?絵具だよ」
「絵具……初めてみました!」
「そうだったんだ。使い方を教えるね。ほら、筆を持ってごらん」
「はい!」
「それで、ここにこの色をつけて……そうそう。それで今度はこっちの色を塗って……」
「な、なるほど」
「はい、完成!」
「わぁ!私ですね! お姉さま! ありがとうございます!」
「どういたしまして」
俺は、そんな二人の姿を見て、ほほえましく思っているのであった。
……それにしても普段きついユリスがああも和やかにしているのは珍しいな。
これも、リリアナのやさしさのなせる業というか。
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