第3話 会議は踊る。


 俺がやってきたのは、竜達の集まりの中だった。ここは様々な種族が集まっておりとても賑やかなところである。中には人間の姿の者もいるが殆どが竜のままの姿で生活しているのだ。まあ、その方が何かあった時に対処しやすいからな。だがしかし、俺はこの場所があまり好きではなかった。



「おい見ろよあれ……」

「あいつが来たのか……」

「なんて威厳だ……」



 俺を見た竜達はひそひそと話をしている。彼らの視線は冷たい。まあ、無理もないとは思っているが、正直慣れる気がしないな。

 しばらく歩くと他の場所より一段と騒がしい空間に辿り着いた。その場所の中央には一体の黒い竜が座っていた。その周りを沢山の竜達が囲んでいる。



「遅かったな……」



 こちらを見ると同時に声を発したその竜こそ黒竜王、ガルザスだ。鋭い牙を剥き出しにしたその姿はまさに圧巻と言う他ないだろう。



「遅くなって悪いな」

「フン……。別に構わんさ」


 ガルザスはぶっきらぼうな態度で言う。どうやら怒ってはいないようだ。少し安心する。


「どうだ、何か面白い事でもあったか」

「実は最近俺と一緒に住み始めた子供がいるんだ」

「お前の子供なのか?」



 俺の言葉を聞いた瞬間ガルザスが身を乗り出してきた。



「いいや、俺の子じゃない。拾った」

「なんだ違うのか。なら興味はないな」



 俺の言葉を聞くや否やガルザスは元の位置に戻った。こいつはこういう奴なのだ。興味がないと思ったことはすぐに切り捨てる。

 俺は苦笑しながら言う。



「まあ、聞けよ。その子はさ、お前と同じ境遇なんだ」

「なんだと?……どういう意味だ?」

「まあ、言葉の通りだよ。その子は、孤児なんだ」

「……ふん、聞きたくもない」



 俺の言葉を聞いてガルザスは一瞬表情をゆがめたが、それ以上は何も言わなかった。まあ、そうだろうな。こいつとはそういう間柄なんだ。でもな……。



「でもな、俺はその子が気になって仕方ないんだよ」

「ほう? 珍しい事もあるものだな」

「だな。俺自身驚いてるよ」



 俺は思わず笑ってしまった。それを見てガルザスは怪しげな顔をしていたが気にせずに続ける。



「その子はな、とんでもなく優しい子なんだよ」

「……そうか」

「うん。それでな、凄い甘えん坊なんだよ」

「……で?」



 そこで一拍置いてから俺は言い放つ。



「つまり、俺はその子の事が大好きだってことなんだよ!」



 俺は力説したが返ってきた反応はあまりよろしくないものだった。



「……で、結局何が言いたいんだ?」

「うちの子がかわいいってことさ」



 はぁ、とガルザスはため息をついた。そして続けて俺に向かって言う。



「まあ、お前の趣味などどうでもいいが……一つ忠告しておくぞ。お前がその子の保護者になるのであれば絶対に守り通せ。お前に守れるか? 自分の娘の笑顔を」



 真剣な表情をして答える。



「もちろんだ。リリアナの為ならば俺はどんな事でもやってやるさ」



 そう言った時、ふとリリアナの顔が思い浮かんできた。

 ああ、やっぱりあの子のことが気になっているのだろうな……。だが……。

 首を振って自分の考えを振り払った。

 俺はガルザスの問いに対してとぼけて見せた。実際、何も話すつもりはなかったのだが……。どうにもリリアナの事を喋りたかったみたいだ。我ながら情けない話だ。だが……。



「……でもまあ、悪くないかもな……」

「なーにしてんの」



 その時、女に声をかけられる。

 現れたのは、竜のユリスであった――人間体の。

 紫色のドレスをまとい、その姿は人を魅了させる。

 しかし、竜にとっては人間は興味の対象ではなく、その衣装は竜達の意識を引くことはない。それにもかかわらず、ユリスはいつも人間体なんだが。



「うわっユリスじゃん」

「何。なんか文句ある?」

「ナイヨー」



 彼女は俺の古くからの馴染みであり、まあ気安い仲である。……なぜかお嬢と呼ぶことを強制されているが。



「あっそ。ところで、今の話聞いたんだけれども? 人間の子供とすごしてるんですって? へぇ、そうなんだ。あんたロリコンだったのね。(嘲笑)」



 ユリスは俺を指差して笑い転げている。



「うるさいな」

「え? 図星? そうなの? 超ウケるわね。くすくす」

「ち・が・う!」



 俺は否定するがユリスは全く聞いていない。

 くそぅ、なんなんだよ。



「ねぇ、ちょっと見せてよ。どんな感じなの? え? 絵とか無いの? 写真みたいなやつ。見たいな~。ねえ、お願い! 一回だけで良いからさ! ほら、私達友達でしょ? だから、ね?……ダメ? じゃあさ、私が代わりに描いてあげるから! それで許してくれるよね! 」


「……うちに来るつもりかよ」

「え、行っちゃだめなの?」



 ……この子はもう……。



 俺は諦めた。こうなるとこいつはもう聞かねえんだから。



「ったく、しゃあねえな」

「やったー!」



 人間体のままはしゃぎだす。……うるせえ。



「貴様ら、静かにしろ。そろそろ話し合いを始めるぞ」

「「はーい」」



 面白くもない会議が始まる。

 さっさと時間がたつのを待つばかりだ。

 そういえばこの会議って何のための会議なんだろうか。

 議題は? 結論は? そもそもこれは決定事項なのか? そんな疑問が頭をよぎるけど、まあ、どうせ俺には関係ないことだし、考えないようにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る