第2話 パパと娘の関係
「ねぇパパ」
朝食後、俺が片付けをしている最中。
隣で皿洗いをしていたはずのリリアナから突然声を掛けられた。俺は手を止めて返事をする。
「どうした?」
「パパの好きな食べ物って何ですか?」
「俺の?唐突だな。まあ、別に構わないが。俺は甘い物が好きだな。ケーキやシュークリームは特に好きだぞ」
「へぇ。意外と女の子っぽいんですね」
「ほっとけ」
女の子に女の子らしいと言われるとは思わなかったぜ。
「ちなみに、お前はどうなんだ?」
「私、ですか? 私もスイーツは好きですけど……」
「ふむ、しかし洋菓子だけってのもさみしいもんだな」
「ようがし?」
「いやなんでもない」
洋菓子がなければ和菓子もないのか。
ふむ。和菓子か。それもまた良さそうだな。
餡子でも作ってみるかな。俺が転生する間にいた国の料理でもあるし。
「よし。作ってみるかな」
リリアナと話し始めて数分後。早速取り掛かっているとリリアナが質問してきた。
「ねえ、パパ。ところでこの作業は何を作ってるんですか?」
リリアナが指差したのは鍋の中に入っている小豆。
ちなみに俺は前世で小豆を使った料理を作ったことはない。
まあ、似たようなものは作ったことがあるんだがな。
そのせいか、かなり不安だったりする。
まあ、物は試しか。
そう思った俺は小豆を一粒つまみ口に放り込む。そしてゆっくりと噛みしめ、味を確かめる。うん。ちゃんとした小豆だ。これならばいけるだろう。そしてリリアナの方を振り向いた。
「リリアナ。今からこれを煮詰めて……っと、もうこんな時間か。俺は出かけに行くが一人で平気だよな?」
時計を見るとすでに家を出なければいけない時刻となっていた。
リリアナはまだ幼いが賢いし、一人にしても大丈夫だろう。そう思っての発言だったのだが……。
「いや……行かないで……パパ……!」
なぜかリリアナが涙目になりながら抱きついてきた。………………え? ちょ、ちょっと待ってくれよ。なんだよこの状況は。
「ど、どうしたんだリリアナ!?」
リリアナがこんな行動をとるなんて初めてのことだ。俺は大いに動揺していた。
すると、リリアナが消え入りそうな声でこう呟いた。
「だって……パパ、どこか遠くに行きそうだから……怖い……!」
リリアナの顔を見て俺はハッとなった。彼女の体は小さく震えている。
そうだよな。リリアナだってまだ10歳の女の子だもんな。そりゃ怖がってもおかしくないよな。俺はなんて馬鹿なことをしてたんだろう。自分の娘なのに。
俺は優しくリリアナを抱き寄せた。
「大丈夫。俺はどこにも行ったりしないよ」
リリアナの頭を撫でながら語りかける。
「ほ、本当?」
「ああ」
俺がはっきりとそう言うとリリアナの表情が明るくなった。
「約束ですよ? 絶対守って下さいね」
「ああ、もちろんだ」
「あ、でも、今度行くときはお土産を持ってきてください」
「了解だ」
リリアナの頭を軽くポンッとしてから俺は言う。
「さあ、リリアナ。今日も一日頑張ろう!」
「はい!」
元気良く返事をしたリリアナと手を繋ぎ外へと向かう。今日も良い天気だ。
「じゃ行ってくるよ」
そうして俺は竜に変身し、空高く飛んでいった。
***
俺は、空を飛ぶ。
考えるのは、あの少女、リリアナの事。彼女が来てくれてからの生活は毎日が充実している。俺にとっては久しぶりの感覚だ。だからこそ、余計に考えてしまうのかもしれない。リリアナは俺の娘になった。だがそれは仮初の関係に過ぎない。
いつか、本当の家族の元へ帰すべきなのだろうか?いや、違う。そんなことをしても誰も幸せにはならない。だから、俺は決めたんだ。俺はリリアナと本物の親子になりたい。そのために努力しようと思う。幸い、俺は竜だからな。時間はいくらでもある。俺は、リリアナの笑顔をいつまでも見ていたいんだ。
人と竜が生きることは難しい事だ。だが、俺はやる。たとえどんな障害があったとしても。俺はリリアナを守る父親になる。それが俺の覚悟だ。
最初はパパと言われて面食らったが、今では本当に彼女の父親になろうと思っている自分がいる。
俺には、俺のことを本当の親だと思ってくれているというリリアナがいる。だから、きっと出来るはずだ。
いや、やらなければなるまい。
俺はこの世界に転生したんだ。ならば、俺はリリアナの父親になるために全力を尽くす! 俺は改めて決意を固めたのであった。
***
オーフィアが去って、しばらく。
「パパ、今頃どうしてるかな……」
リリアナは考える。パパの事を。
「早く会いたいな……」
リリアナは呟く。彼の事を想って。その結果、私は彼に対する感情の正体を知ることが出来た。
これは恋ではないと思う。私が彼を想うのは、愛であって欲しいからだ。それに、私のパパへの想いは決して軽いものではないと思うから。パパの傍にいたいと思うから。だから……。
――私はパパを愛しています。この先もずっと。
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