第21話 出張の終わり


 戦いが終わり、俺は人間体に戻る。

 奥には、たくさんのさらわれたであろう女性が縛られ眠らされていた。



「うう……ミハルちゃん!? ……どうしてここに?」

「どうしてって……さらわれたんでしょ? アリサちゃん。助けに来たんだよ」


「そっか……ありがと……!」

「それで、他の人は?」

「まだいるよ……」

「そうなんだ……とりあえず、ここを離れよ?」

「うん!」

「しかし、奴らの目論見は何だったんだ?」

「おそらく、何かしらの儀式をするつもりだったんだろう。これだけの人数、それに大量の魔力も集められている。何を召喚しようとしたのかはわからないが、相当な怪物を……」

「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」

「どうしたんだい? アリス」

「はい、その儀式についてですが……心当たりがあります」

「何だって……それは一体……!」「実は、少し前にユリスさんが私達の所に来まして……その時にユリスさんが言っていたんです」

「ユリスさんが?」

「はい、何でも『魔王軍が動き始めた』とか」

「魔王軍……!」

「ええ、ユリスさんはそう言っていました」

「魔王軍だと……?」



 魔王軍……かつてこの世界を恐怖の底へと叩き落とした最悪の存在だ。

 俺は、かつての記憶を呼び起こす。



『ははははは!! いいザマだな!』





 俺はかつて、魔王軍の四天王の一人であった……操られた結果、だが。

 まったく、あの時のことは思い出したくもない。今でも屈辱だ。



『お前たち人間はもう終わりだ! さあ、絶望するがいい!!』



 そう叫ぶ魔王の声が聞こえる。

 奴らは人間に対する絶望そのものであった。それが動き出しているとすれば……



「魔王、または魔王軍四天王の誰かを……よみがえらそうとしているんだろうな」

「……何?」

「いや。どちらかといえば後者か、魔王を復活させる方法を知っているだれかだろうな。これでは魔王を復活させるには足りない」


「じゃあ、ユリスは……」

「ユリスが何か知っているのかもしれないな」

「まあ。細かいことは後にしてとりあえずここからさらわれた人を連れ出して脱出しよっか」



 ミハルはそう提案した。



「そうだな。いつまでもこんな場所に居たくないしな……」



 俺は同意した。そして、俺たちは捕らわれていた人達を解放し、脱出する準備を始めた。



 ***



 俺達は囚われていた女性達を連れて街へ戻った。


「いやあ本当申し訳ないですっ。宿敵相手に助けられるとは」

「宿敵って俺の事か?」

「はい、オーフィアさんです! 超えるべき壁! 倒すべき敵! まさに宿敵です!」

「……倒されたくないんだがな。俺も生きてるんだぞ?」


やれやれ、と肩をすくめる。


「折角ですし、一手指南させてくださいなっ」

「……今日は疲れたからやめだ」

「えー」

「はいはいアリサさん、つかまって大変だったんでしょうから今日は休みましょ」

「えーまあそうですね、それでは、また後日お会いしましょうっ」



 アリサさんは別れを告げる。


「んじゃま、元気でな」

「またね~」

「皆さん、お世話になりました」



 ミハルさんとアリサさんはお礼を言いながら去っていった。

 その後、街の外まで彼女たちを送った後、俺たちは町と戻った。

 その途中、ユリスが現れた。



「どうだったかしら?」

「お前、今の今まで現れなくていったい何を……無理に来いとは言わないが一緒に来てくれたら何かできることがあったんじゃないか?」

「仕方がないでしょう? 私だって忙しかったんだもの」

「まあ、いい。それで、あいつらが話していた内容はどういうことだ? 魔王軍が動き出したのだの……お前なら分かるんじゃないのか?」

「まあ、大体は予想がつくわ。でも、あなたは知るべきじゃないと思うけど?」

「なぜだ?」

「だって、知ったらきっと後悔することになるから……それでも知りたいの?」

「ああ」

「分かったわ。教えてあげる。まず、彼らは召喚術を行おうとしている」

「召喚術か」

「ええ。しかも、かなり大規模なものをね」

「いったい、何を召喚するつもりなんだか」

「そこまでは分からないわ。ただ、この世界に存在しないような強力な存在であることは間違いない」

「この世界に存在しない……だと?」

「ええ」



 ユリスは静かに答える。

 俺はユリスの答えを聞いて考える。

 確かに、俺はユリスから様々な知識を教えてもらった。その中には魔法に関するものもあった。だが、その中に『異世界』というワードはなかったはずだ。つまり……



「ユリス、一つ聞きたいことがあるんだが」

「なにかしら?」

「お前は、『異世界』という言葉を聞いたことがあるか?」

「あるわけないでしょ」

「だよな」



 俺の世界とは関係のない話か……だが。それとは違う別の世界の話となると。



「魔界、か?」

「ええ。そこから強大な存在を呼び出そうとしている」

「一体何を呼び出そうとしているんだか」

「さあね。私にもわからない」

「ふむ。まあいいか……しかし、そうすると魔王はもうよみがえっているのか?」



 魔王軍が組織的に動いているのだとしたら……

 それは厄介だな。



「いいえ。まだよ。だけれども召喚するあてくらいはもうあるはず」

「よみがえるのもそう遅くはないってことか……」

「そして魔界からの強大な力とともにこの世界をどうにかするつもりでしょうね。この世界を征服して、人間たちを根絶やしにする気でいる」

「人間を滅ぼす、か……」

「どうせ、そんなことをしても意味なんてないというのに」

「まあ、そうだな」


「とにかく今は様子を見ることにしましょう」

「ああ」


 ***

 一件落着し、俺はリリアナの頭をなでる。



「ミハルといてどうだったか?」

「優しかったです! 今回、私は何もできませんでしたが……」

「子供に何かができる分けねえだろうが。そんなもんだって」

「でも、次はもっと頑張りますから!!」

「はいはい。分かったから。ま、次があればだけどな」

「はいっ!!」



 リリアナは嬉しそうにしている。

 本当に、優しい子だな……。

 俺はふと空を見る。日は沈みかけており、茜色に染まっている。



「さてと、帰るとするかね」

「はい、パパ!」



 こうして、俺とリリアナの出張旅は終わった。


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