第35話 3人のお出かけ

 ……あれからしばらく歩いて、目的の店へとたどり着いた。



「わぁ、可愛い洋服いっぱいありますねぇ!」



 ミハルは目を輝かせている。



「うん、たくさんあるからどれにしようかなぁ」



 アリサも楽しそうだ。

 そんな様子を見ていたリリアナはというと、



「私には似合わないと思いますよ……」



 遠慮がちに呟いていた。



「そんなことないですよ! ほらこれとか似合いますし」



 ミハルがそう言うとリリアナにワンピースを当てた。……確かにリリアナに合ってるかもな。可愛い。



「さすがにこれを着るのは恥ずかしいですよぉ」

「大丈夫だって、これ試着とかしちゃいけないのかな?」



 ミハルが店員さんに声をかける。



「はい、大丈夫ですよ、サイズが合えばお持ちください」



 そう言われ、リリアナは渋々といった感じで着替えに行った。



 ***



 ……リリアナが戻ってくる。



「ど、どうでしょうか……?」



 リリアナが不安げな表情で聞いてくる。



「うん、すごくいいと思う!」



 ミハルのリリアナは嬉しそうな顔をした。



「はい、凄く素敵です!」



 アリサも絶賛している。



「あ、ありがとうございます!」



 リリアナは照れくさそうにしている。

 その後もリリアナは色々な服を着せられていった。

 ***



 ……リリアナたちはいろんな服を買って、出て来た。

 今は三人で喫茶店に来ているところだった。俺はリリスと二人で紅茶を飲み遠くから彼女らの様子を眺めている。



「ふぅ、満足した!」



 ミハルはとても楽しげにしている。一方のリリアナは、疲れているのか、ぐったりしていた。



「……私、あんなにたくさんのお洒落な服を見たのは初めてです」



 リリアナが感慨深そうに言った。



「また、見に行こうね!」



 ミハルが笑いかける。



「はいっ!」



 リリアナもつられて笑っていた。



「それじゃあ、次はどこへいこっか!」



 ミハルがリリアナに聞く。



「はい、私お腹空きました」

「おっけー! お昼ご飯にしましょう!」……ミハルは元気だな。


 ***



 ミハルの提案により、近くの食堂へ行った。そこで昼食をとる。ミハル達は美味しそうに食べていた。

 食後、再び歩き始める。ミハルはリリアナの手を引いていた。リリアナは戸惑っている様子だったが、やがて諦めたようにされるがままになっていた。……しばらくして雑貨屋に着いた。ミハルは何かを探しているようだ。リリアナは興味津々といった風に辺りを見回している。



「あっこれなんか可愛くていいかも」



 ミハルが手に取ったものは小さなぬいぐるみだ。犬のような形をしていて首輪をつけている。

 リリアナはそのぬいぐるみを手に取って、じっと見つめている。



「気に入った?」



 ミハルが問いかけると、リリアナはこくりと首を縦に振った。そしてそれを大事そうに抱えると笑顔を浮かべている。ミハルもリリアナの頭を撫でながら、微笑んでいた。……こうして二人は買い物を終えた。



 ***



 ミハル達が次にやって来たのは本屋だった。リリアナは絵本のコーナーにいる。その隣ではミハルが本を物色している。……少し時間が経った頃、ミハルが一冊の本を持ってやってきた。その表紙を見ると、勇者の冒険譚と書かれているものだった。



「リリアナちゃん、この勇者のお話読んでみませんか?」



 ……リリアナにその本の中身を見せると、食い入るように読み始めた。



「読みたいなら、買っちゃいましょうか」



 ……ミハルがそういうので、リリアナはそれを買うことにしたようだった。リリアナが持っている袋の中にその本が入れられている。



 ***



 外で、ミハルがリリアナに読み聞かせをしている。

 ……しばらくするとミハルは本を読み終えたようで、リリアナに感想を求めていた。リリアナはミハルが持ってきたその本にすっかり夢中になっているようだったが、ようやく我に返ってミハルに答えていた。ミハルは嬉しそうに笑っていたが、不意に真剣な顔つきになった。



「ねえ、リリアナちゃん、私と一緒に旅をしませんか?」



 ミハルが唐突な提案をする。しかしリリアナはすぐには返事をせず、考え込んでいる。ミハルは言葉を続けた。



「リリアナちゃんは今の生活に不満はないですか? もっとこうしたいとか、こういう生活がしてみたいとか、ありませんか?」



 リリアナはまだ悩んでいるようだったが、ゆっくりと口を開いた。



「私は、今までずっと一人だったので、何をすれば良いのかわからなかったんです。だから、私はこれまでやりたいことをやらずに生きてきてしまいました。でも、今は違います。私には……パパがいます」




 リリアナの目に涙が浮かぶ。


「だから私は、自分の気持ちに正直になりたいです。私は、パパと一緒に暮らしたい」


 リリアナの目からは大粒の雫が流れ落ちる。

 ミハルはそんなリリアナを優しく抱きしめた。


 ミハルはリリアナの背中をさすりながら、言葉を紡いでいく。



「リリアナちゃん、私はあなたがどんな選択をしても、あなたの味方だから。いつでも頼ってくれていいんだよ」



 ミハルの言葉を聞いたリリアナは泣き崩れてしまった。



「……リリアナちゃん、大丈夫?」



 ミハルは心配そうにリリアナを覗き込む。



「……はい、ごめんなさい」

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