第36話 ミハルの意志


 リリアナは謝っているが、まだ泣いている。



「大丈夫だよ、これからは私たちがいるから」



 ミハルはリリアナの手を握りしめ、安心させるように語りかけている。



「はい……」



 リリアナは俯いている。



「あの、私、決めました。私、やっぱりパパと一緒に居たいです。私、決めたんです!」



 リリアナが意を決したように言う。



「そっか、よかった」



 ***

「ところで、そこに誰かがいらっしゃいますね?」

「げっ」



 アリサが突然俺たちの方を向いて言う。



「ちっばれたか……」

 俺が悪態をつくと、ユリスが苦笑いする。



「まあ、隠すつもりはなかったけどさぁ」

「ええ!?」



 リリアナが驚いている。



「リリアナちゃん、久しぶりー」

「パパ! どうしてここに?!」

「えっと、それはだなぁ」



 俺はユリスを見る。ユリスは肩をすくめている。



「まあいいか」



 ユリスがため息混じりに呟く。



「いいのかよ!」

「だって、どうせいつかバレるんだし」

「そりゃそうだが」

「じゃ、問題ないじゃん」

「うぐぅ」



 ユリスは相変わらず手厳しいな。



「まあなんていうか、出かけるリリアナをつけてたって訳だ」

「ええ……なんですかオーフィアさんそれはあれじゃないですか……?」

「うるせえ気になったんだよ」

「はぁ、仕方がないですね」

「というわけで、俺も一緒に行くぞ」

「えぇ!?」



 リリアナは目を丸くしている。


「いや、別に構わないでしょ? あたしもいるんだし」

「ううユリスさんの頼みとあれば……」

「やったぜ」



 ユリスがガッツポーズしている。



「で、どこに行こうとしてたんだい?」

「あ、はい、この近くにある図書館です」

「ふむ、確かにこの辺では一番大きいな。よし、それじゃ行ってみるか」



 ユリスが先導するように歩き出す。



「わあっ、待ってください〜」


 ***

 俺たち三人は、図書館の中に入った。



「へえ、広いじゃないか」

「はい、この街で一番大きな建物なので」

「なるほどな」



 ミハルの説明を聞きつつ、俺は館内を見回す。



「ん、なんか面白いものでもあったかい?」



 ユリスが興味深そうに聞いてくる。



「ああ、ここの蔵書量はなかなかのものだな」

「はは、君が認めるほどの量があるなら相当なもんだろうな」



 ユリスは感心しながら辺りをキョロキョロ見回していた。

 リリアナに案内され、俺たちは本棚の間を進んでいく。



「パパ、これなんてどうかな?」



 リリアナが手に取った本を見せてくる。



「どれどれ……おお、これは凄いな。うん、読んでみようか」

「はいっ」



 リリアナは嬉しそうに笑うと、その本を大事そうに抱え込んだ。

 リリアナの選んだ本は、この世界の成り立ちについて書かれた本だった。

 リリアナはその本を読むのに夢中になっている。



「ほれ、お茶」



 俺はリリアナに飲み物を渡す。



「ありがとうございます、オーフィアさん」

「おうよ」



 リリアナがお礼を言うと、俺はリリアナの隣に腰掛ける。



「それにしても、リリアナはよく読むな」

「はい、とっても楽しいです」



 リリアナは笑顔で答える。



「そういえば、ユリスはどんな本が好きなのかな」

「ユリスさんですか? 私は冒険譚が好きです」

「ほう、冒険者に憧れてるのかね」

「はい、いつかは冒険者になってみたいと思っています」

「冒険者ねぇ……危険が伴う仕事だが、大丈夫なのか?」

「はい、私だって戦えるようになりましたから」

「はは、そうだな」

「でも、やっぱり怖いですよ」

「そりゃあな」

「でも、私だって強くなってみせるんです」

「はは、頑張ろうな」



 リリアナと会話をしながら、俺も読書をする。

 しばらくすると、リリアナがウトウトし始めた。



「眠いのか?」

「はい……」

「少し寝るか?」

「でも……」

「いいからいいから、気にせず休んでおけ」

「すみません……」



 リリアナは申し訳なさそうに謝ると、すぐに眠りについた。



「お疲れ様」



 俺はリリアナの頭を撫でてやる。


 ***


「あははリリアナちゃん寝ちゃったんだ」



 ミハルがリリアナの様子を見に来る。



「あれ? もう来てたんですか?」

「ああ」

「ん~……どうしたんですか? 浮かない顔をしてますけど」



 俺はユリスのことを思い出す。



「ちょっと色々あってね。まぁ気にしないでくれ」



 ミハルは不思議そうな顔をしながら首を傾げる。



「そんでさあミハルちゃんはさ」

「ハイなんでしょう」

「どうしてリリアナを誘ったんだ? わざわざ山登ってきてまで」

「? 友達を誘うのに理由が必要ですか?」

「お前なあ……」



 まったく、勇者というやつはなぜこうもバイタリティが高いのやら。



「まあ……少し話したいことがあったっていうのも本当ですよ?」

「……リリアナを、俺から引き離すつもりか?」

「そういうわけでもないんですけれども……ちょっと私が仲間が欲しいなって思ったのも本当ですが」

「じゃあ、どういうつもりなんだ?」



 俺は、厳しい目をしながら説いた。


「……リリアナちゃんにもね、未来が必要だと思ったんですよ。いろんな世界を見ていろんな経験をして。今までなら一人じゃ何もできなかったかもしれないですけれども、私なら、何かしら教えて差し上げられますから――」



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