第37話 勇者の悲哀
「そうだな……もしも、リリアナが先にお前に会っていたらそうなったかもしれない。だが、そうはならなかった」
彼女はわざわざ、運命的に――俺の下を訪ねたのだ。
「それに、彼女はまだ子供だ。まだ、旅立つには幼すぎる。そうだな、将来もっと成長したら……リリアナが、旅立つのもいいだろう」
「その時は、ですね!」
「はは、それまでに旅が続いてるかどうかわからないがな」
「たぶん、私はいつまでも旅を続けると思いますよ。帰る場所、ありませんからね」
「……そうか」
それは、勇者ならではの悲哀というやつか。
この世界に放り出され、永遠に旅をしなければならない宿命。
それを背負ったのが、彼女なのか。
「なあ、それはつらくないのか?」
「はい?」
「勇者として一人旅を続けるのは……辛くはないのか?」
リリアナは首を横に振る。
「ううん辛いと思ったことはないの。私には仲間がいるし」
「ちょっと前まで一人だっただろうか。……その前には裏切られたり」
「あはは、そんなこともあったけど、昔のことだし。もうきにしてないし。……ちょっと辛かったけどね」
やっぱり、辛いんじゃないか。
でも、リリアナは笑っていた。
「でも大丈夫です! 私はもう負けません!」
リリアナは笑顔だった。
「……今日は、うちに泊まっていけよ。それでしばらくリリアナに何か教えてあげるといい」
「? なんですか突然」
「それで、たまには止まっていっていいんだぞ。少し旅に疲れたらな」
「あはは、そうですね。少しお言葉に甘えさせてもらいましょうか」
そういって、彼女はにっこり笑う。
その笑顔にどこか悲しみを背負いながら。
「ミハルちゃーん」
アリサが、手を振りながらやってくる。
「アリサちゃん、きょうオーフィアさんの家に泊まってくから」
「本当ですかっ! オーフィアさん、一手指南させてもらえませんか!」
「はは、すぐやられるだけだと思うがな」
「今度は私が勝ちますからっ!」
「やられてたまるか」
俺は眠ったリリアナを背中に背負い、図書館から出ていく。
「いやあ楽しかったですね今日はっ!」
「また、リリアナちゃんを誘ってきましょうね」
「あら? 私は誘ってくれないのかしら」
後ろからユリスがぬっとやってきてニヤニヤ笑っている。
「まあ……たまには誘ってあげますけど」
「ていうかてめえも勝手に付いてきただけじゃねえか」
「一番最初にストーカーし始めたのは誰だったかしら?」
「うーん」
その時、誰かのおなかからぐうっと音がする。
「夕ご飯はどうしましょうか?」
「まあ、うちでご馳走してやるよ、楽しみにしてな」
「わーいっ」
「私も手伝いますよ!」
「あら、お手並み拝見といこうかしら」
「なんでユリスもついてくることになってるんだよ。お前は誘ってないぞ」
「えーつれないわねえ」
そんなことをいいながら、俺たちは帰路へと向かうのであった。
***
「ご飯ができたぞー」
家に帰って彼女たちを招待し、(ユリスは帰らせた)起きたリリアナと共に会話に華を弾ませる彼女たちを横目に俺は夕飯を作る。
今日の献立は、シチューにサラダ、コンソメスープにフルーツゼリーである。……いつもより少し豪華な気もするが、まあいいだろう。
人が多いせいかいつもよりも張り切って料理を作ってしまった。みんな喜んでくれるといいけど……。
「よっと、自信作だ」
俺はその大きな鍋から取り出したものをみんなの皿に取り分ける。
「おおっ!! すごいですっ!!」
「すごいね~! この量全部一人で作ったんでしょ?」
「うわぁ……おいしそぉ……」
みんなの反応を見て思わず笑顔になる。やっぱりこういう風に褒められると嬉しいよね。
ちなみに、シチューには野菜もたっぷり入っている。肉だけじゃなくて野菜も食べないと健康によくないからね。……でも、ちょっと作りすぎたかねえ。
ミハルちゃんはさっきよりももっと笑顔になっている。
「すいません、一人でつくらせてしまって」
「いや、このくらいなら余裕だ」
「すごいんですよ、パパは! 料理なら何でも作れるんですよ!」
リリアナが興奮気味に言う。おいおい、ほめるなよ。そんな大したもんじゃないって。
皆が嬉しそうにご飯を食べてくれている。やっぱりみんな笑顔が一番だよ。
さてと、俺も食べようかな。いただきます。
「おいしい!」「うまい!」「すごくおいしいよオーフィアさん!」
……うん、満足してくれたみたいでよかった。作った甲斐があったってもんだ。
ミハルちゃんは相変わらず食べるのに夢中である。リリアナも同じく。リリスは黙々と料理を口に運んでいる。
「ふぅ……食ったなあ」
「いっぱい食べたねぇ」
ミハルちゃんとリリアナが幸せそうな顔をしながら膨れた腹をさすっている。
「あ、片付けぐらいは手伝わせてください」
「ん、ありがとう」
ミハルちゃんが食器を流しまで運んでくれている。
本当にいい子だ。こんな子が、過酷な運命を背負わなければならないだなんて。
ああ、彼女たちに幸いを。せめて、今日ばかりは安寧を得られますように。
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