第38話 アリサの挑戦


「はあっ!」


 アリサが、俺の方に向けて槍を突き付ける。

 だがその攻撃は空を切る。



「甘いな」

「まだまだぁ!」



 再び突きを放ってくるが、それも竜の巨体でありながらかわしていく。



「ふわあ……こんな朝っぱらから……何やってるの?」

「バトル!」

「……ふーん」



 ミハルが起きてきて、俺の戦いを観戦する。


 今、俺はアリサと戦っていた。



「ふっ遅いな!」



 俺は口から火を噴く。その炎の奔流に呑まれて吹き飛ばされた。

 しかし、すぐに起き上がって構え直す。その目はまだ死んでいない。



(まだ諦めないか)



 ならば、次こそ一撃を叩き込んでやろう。



「喰らえッ!」



 アリサの手から放たれたのは、光輝く魔力の塊である。

 その光が一直線に向かってくる。それを俺は尻尾ではじき返す。



「まだまだぁ!」



 何度も何度も魔法を放つが、全て弾き返される。



「はあ、はあ、はあ……」

「終わりか?」

「ぐっ!!」



 彼女は、両手に持っていた短剣を地面に刺し、杖代わりにして立ち上がる。

 そして呪文を唱え始めた。



「……」



 彼女の全身から膨大な量の魔力があふれ出す。それはまるで嵐のように激しく渦巻いている。「はああああっ!!!」

 彼女が叫ぶと同時に、その力が解放され、暴風となって辺りを吹き飛ばす。



「ふっその程度か」



 だが、この程度でどうにかなるはずもない。



「はああっ!!」



 彼女の周りに無数の光の球が浮かぶ。その数は優に百を超えていた。



「はあ、はあ、はあ、はあ……」



 肩で息をしているのは疲労のせいか、それとも魔法の連続使用による反動のためか。どちらにせよ、もう限界なのは明らかだった。



「行くぞっ!」



 その言葉と共に、全ての球体がこちらへと向かってきた。

 だが、この程度の数など造作も無い。



「はあっ!」



 ブレスでそれらを消し去る。同時に、その隙を狙って接近してきたアリサの拳を受け止める。



「く、はなせっ」

「断る」



 そのまま押し返し、壁に叩きつける。



「がはっ!」



 アリサが苦しむ中、俺は彼女に近づいていく。。

 彼女はその力に耐えきれずに倒れ伏すが、それでも立ち上がろうとする。



「はあ、はあ、はあ……」



 やがて力尽きたのか、彼女はそのまま意識を失ったようだ。……何度も俺に向かってくるだけはあるか。さすが勇者とパーティを組んでいるだけあるか、強いな、彼女は。



「……よし、今日はこれくらいにしとくか」

「くっ……まだ……」

「そろそろ諦めたらー? 何度も戦ってるけど負けてるじゃん」

「くっこうなったらミハルちゃんと一緒に戦って……」

「私はやんないよー。無駄だし」

「ええー……」

「ていうか私に頼らずに自分で頑張れよなー」

「だってー」



 ったく、積極的に挑みかかってくるのは面倒だな。

 かといって殺すわけにもいかないし。適宜挑んでくるのを蹴散らすしかない。



「あのーみなさん」



 リリアナが声をかけてくる。



「そろそろ朝ごはんですよー……朝っぱらから何をやってるんですか」

「うーん龍退治っ」

「私のパパですよ! 倒さないでください!」

「じゃあ……力試し?」

「それじゃあ負けたからまた今度ってことで」

「えーやだー! まだ負けてないー!」

「はいはい」



 そういって、ミハルはアリサを引きずっていった。

 やれやれ、俺も朝ご飯を食べるか。



 ***

「今日の朝ごはんは、トーストにベーコンエッグにサラダです。私が作ったんですよ!」



 リリアナは胸を張って言う。



「おお、美味そうですねっ」


「いただきま~す」

「いっただきます」

「どうですか?」

「うん、すごくおいしいよ!」



 ミハルちゃんが満面の笑みで言う。

 リリアナもすっかり料理が上手くなったな。将来は良いお嫁さんになれるだろうな。



「うわぁ……ほんとだ、おいしいよっ!」

「ありがとうございます、ミハルさん、アリサさん。そう言っていただいて嬉しいです!」



 リリアナが嬉しそうな笑顔を浮かべながら言う。うん、この笑顔を見るとこっちも幸せな気分になる。……それにしても、リリアナの料理は相変わらず美味いな。リリアナが料理を習いたいと言ってから毎日練習しているから、日に日に腕を上げている気がする。リリアナの料理の腕は確実に上がっている。



「ん、うまいな」

「おいしいよリリアナちゃん!」

「わぁ、ありがとうございます!」



 ミハルちゃんとアリサも満足してくれたようで何よりだ。

 リリアナも嬉しそうに笑う。……リリアナがこんなに明るく笑ってくれるようになったのは、やっぱり嬉しいな。リリアナがこうやって笑顔を見せてくれるのが、俺にとっての幸せでもある。



「それにしてもなーまた負けちゃったなーもっと強くなりたいなー」

「精進あるのみだよ。少しずつ頑張らないと」

「あの……ミハルさん」



 リリアナが少し真剣な目をして言う。



「強くなるにはどうしたらいいと思いますか?」



 そう、彼女に問うた。


「そうだねぇ……まずは基礎体力を付けることかな」

「ふむふむ」

「それから筋力トレーニングとか素振りをするといいかも」

「分かりました」

「あとは実戦経験を積むことだけど……」

「実践ですか?」

「そう」


 ミハルは一度言葉を切ってから続ける。


「戦う時に一番大事なことは何か分かる?」

「えー……思い切ってガンバル!」

「そりゃ当然のことだけど……うん、そうだ」



 ミハルちゃんはそういって立ち上がる。



「私と実際に打ち合って、やってみた方が速いと思うよ!」

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