第30話 とある「誘い」


 数分後。



「サラちゃん、これなんてどうでしょう!」

 リリアナが持ってきたものは、ピンク色のTシャツだ。胸元に大きなリボンがついている。そして背中側には大きくハートマークが描かれている。



「いいじゃない!」「パパ、どうでしょうか?」「うん、いいとおもうぜ」

「やったー!」



 リリアナはとても喜んでいる。

 その後、俺達はいくつかの店を見て回った。その間もリリアナはとても楽しそうだった。こうして、街での時間は過ぎていった。


 ***

 そして、夕方。



「今日はありがとうございました!」

「こちらこそ、久しぶりにリリアナちゃんと遊べて嬉しかったです」

「また遊びにきてくれよな」

「はい!」

「また来ます!」



 リリアナが嬉しそうに返事をする。



「それじゃあ、帰りますか」

「そうですね」

「ばいば~い!」



 リリアナが大きく手を振っている。



「またね~!」



 サラもそれに答えて手を振ってくる。



「さようなら」



 サラと別れた後、俺達は家に帰ってきた。



 ***



「ただいまー」

「おかえりなさい」

「パパ、私、おなかすいちゃった」

「わかった。すぐに作るよ」

「は~い」



 リリアナはリビングに行ってソファーに座った。俺はキッチンに向かう。冷蔵庫の中を確認してみると、卵と鶏肉があった。



「よし、親子丼を作ろう」



 俺は早速調理に取り掛かる。


 ***



 数十分後。

「できたぞ」

「わぁい、いただきまーす」



 リリアナが食べ始める。



「おいしい!」

「そうか、よかったよ」

「はい、とっても美味しいです!」

「そうか、それは良かった」



 俺は笑顔で答える。



「ねえ、パパ」

「なんだい?」

「明日もどこかに連れて行ってくれる?」

「ああ、いいよ」

「ありがとう」



 リリアナが笑みを浮かべる。

 俺はリリアナの頭を撫でた。



「さて、俺は片付けをしておくよ」

「はーい」



 リリアナが食器を運んでいく。俺はテーブルの上を綺麗に拭いた。

 洗い物が終わった俺はリリアナの部屋に入る。ベッドの上で寝転がっていた。



「……パパ、大好き」



 俺は微笑んだ。

 俺はリリアナのそばに腰掛ける。



「リリアナ、俺のこと好きか?」

「うん、好きだよ」

「俺もリリアナのことが大好きだ」

「嬉しい」



 俺はリリアナを抱きしめた。リリアナの顔が赤く染まる。



「パパ、くすぐったいよ」

「我慢してくれ」

「ふふっ、しょうがないなぁ」



 リリアナの髪からシャンプーの匂いが漂ってきた。リリアナの温もりを感じた。

 ***



 リリアナが眠りについた頃。

 俺は椅子に座っていた。目の前の机の上には酒の入ったグラスが置かれている。中には透明な液体が入っている。俺はそれを一気に飲み干した。



「ふう……」



 俺は息をつく。そして、窓の外を見る。月明かりが窓から差し込んでいた。

 俺はリリアナの幸せそうな顔を思い出していた。そして、思う。リリアナには幸せになってほしいと。そのために、俺が出来ることは何なのか。

 リリアナが幸せになる方法。そんなものが本当にあるのか? 俺は自問する。しかし、答えは出ない。

 俺は再び酒を飲んだ。そして、考えることをやめようとしたその時、扉の開く音が聞こえてきた。

 俺は振り返る。そこには、一人の男が立っていた。年齢は二十代後半といったところか。背が高く、整った顔立ちをしている。黒いスーツを着ていて、ネクタイは締めていない。右手にはワインボトルを持っていた。



「やあ、こんばんは」

「……久しぶりだな、てめえも」

「ああ、そうだね」



 俺はこいつのことを知っていた。俺がまだ魔王軍に所属していた頃に知り合った男だ。名前は「レイジ」。魔導士であり、魔法の研究をしていた。研究内容は「魂を別の肉体に転移させる術式」だ。



「で、なんでここにいるんだ?」

「いやあ、君に会ってみたくなってね」

「……」



 俺は警戒を強める。



「そんなに睨まないでくれよ」

「……」

「僕はもう戦うつもりはないよ。そもそも、僕が戦えると思っているのかい?」

「……」

「そんな怖い顔をしないでおくれよ」

「お前が俺の前に姿を見せたのは、俺を殺すためじゃないんだろ?」

「もちろんだとも。むしろ、逆だよ」

「どういうことだ?」



 俺は眉根を寄せながら尋ねる。



「君は僕の目的に協力してくれるかもしれないと思ったんだ」

「……話を聞いてやる」

「そうこなくっちゃね」



 そう言うと、男は持っていたワインを飲み始めた。



「まずは自己紹介からだね。僕はレイジ。よろしくね」

「ああ」

「じゃあ、本題に入ろうか」

「そうだな」

「単刀直入に言うと、君に魔王になってもらいたいんだ」

「……なんだって?」



 俺は思わず聞き返す。



「だから、魔王になって欲しいんだよ」

「冗談はよせ」

「本気なんだけどなぁ」

「ふざけてるのか?」

「いいや、本当さ」

「……魔王は人間を滅ぼす存在だ。俺はもうそんなことはしたくはないぞ」

「そうだね。でも、魔王になったところで人間を滅ぼそうとはしないでしょ?」

「……」



 俺は黙り込む。確かに、俺は人間を憎んではいない。魔王として、その力を振るうことはないだろう。



「だから、大丈夫だって」

「だがなぁ」

「それに、これは君の為でもあるんだよ?」



 そういって彼は、俺をにらみつけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る