第11話 ともだち


「私は、リリアナです。よろしくです!」

「よろしくお願いします」

「あの、敬語なんて使わなくて大丈夫ですよ?」

「いえ、これは癖のようなものなので気にしないでください」

「ふむ。ミハルちゃんはしっかりしてますねぇ」

「……ところで、お二人はどういう関係なのでしょうか」

「なんでしょう……さっきあったばかりというか、同郷というか……」

「?」

「そうだ。私達は友達なんです」

「友達、ですか」

「はい。友達です」

「そう、ですか」


 ミハルちゃんは複雑な表情を浮かべる。

 リリアナは、少し首をかしげていた。



「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもありません」

「何かあるんでしたら、相談に乗りますよ?」

「大丈夫ですよ。ご心配をおかけしてしまいすみません」

「ううん。全然平気だよ! だって、友達でしょ?」



 リリアナが笑顔で言う。リリアナは優しいな。



「リリアナさん……。はい! ありがとうございます!」



 ミハルさんは笑顔で答えた。ミハルさんとリリアナは仲良さげに話している。その様子を見て、俺はほっとした気持ちになった。リリアナとは良い友人になれそうだ。



「それで、どうして私を家に招いたのですか?」



 ミハルさんが尋ねる。



「それはだな、お前と話がしたいからだ」

「私と、ですか?」

「ああ。ミハルさん、お前は勇者だと言った。だが、俺は勇者というものをあまりよく知らないんだ。そこで、勇者について詳しく教えて欲しい」



 俺は勇者という存在に興味があった。

 勇者というのは特別な存在であるらしい。それは俺達魔族にとっても同じことが言えるのだがな。

 魔王とは勇者を殺すための存在だ。だからこそ、俺は勇者がどのような者なのかを知りたかったのだ。



「なるほど。分かりました。では、勇者について説明しましょう。まず、勇者は異世界から召喚されると言い伝えられています」



 異世界から召喚か。 それは、相当に不幸なことだ。なんでそんなことをするのか。



「召喚された勇者は、特殊な能力を持っています。その能力は、召喚された国によって異なります。例えば、私の国は召喚された勇者に聖剣を与え、それを扱えるように訓練を施して実戦に投入するという方法でした」



 へぇ。色んな国のやり方があるんだな。





「勇者の力は絶大であり、その力で魔王を倒し、人々を救うというのが勇者の役目です」

 魔物を倒すのが勇者の役目、か。勇者の力を正しく使うことが出来れば、世界を救うことも可能なのかもしれない。



「勇者の召喚には莫大な魔力が必要になります。しかし、召喚された者は強力な力を持っているので、戦力としては申し分ないのです」



 確かにそうだな。勇者がいれば魔物の脅威はなくなるだろうし、安心だな。



「勇者は他にいるのか?」

「私が知っている勇者は二人だけです。一人は、とある国の王様に召喚された方です。この方は、この世界で生涯を終えたそうです。もう一人は、この世界の神様に召喚されました。この方は、この世界を救い平和をもたらしたそうです。その後、元の世界に帰ったそうです。この勇者様は、元の世界に帰れることを喜んでいたそうですよ」



 ミハルはどこか懐かしそうに話す。

 元の世界に――戻るだと?



「その話を聞かせてくれないか? 帰れるのか?」

「……いえ、その人は神様から召喚されたからこその特例でしょう……残念ながら私達が帰ることは出来ません」



 ミハルは辛そうに答える。

 そうか、元の世界に帰ることは出来ないのか。



「……なあ、ミハルは元の世界に戻りたいと思ったことはないのか? 家族や友人に会いたいとは思わないのか?」



 ミハルは俯く。そして、ゆっくりと口を開いた。



「私は、この世界に残ります。私は、自分の意志でここに残ると決めたのです」



 ……そうか。それなら仕方ないな。



「……そうか。辛いことを思い出させて悪かったな」

「いえ、構いませんよ」

「……お前が勇者であることを隠していた理由は分かった。だけど、何故お前は一人で旅をしていたんだ?」

「私は、仲間に見捨てられたからです」

「……そうだったのか」

「……はい」



 リリアナが俺の服の袖を引っ張ってくる。

 どうしたのだろうか。リリアナを見ると、悲しそうな顔をしている。

 ミハルさんは、とても寂しそうにしている。……辛いことを訊いてしまってすまなかったな。

 そんなミハルを見て、俺は思った。ミハルはきっと強い子なんだろうと。

 ミハルは俺達に迷惑をかけないように、気丈に振る舞っているのではないのだろうか。

 リリアナはミハルに抱きつく。ミハルは驚いているようだ。そして、優しい笑みを浮かべた。



「ありがとうございます、リリアナさん」



 ミハルはリリアナに礼を言う。




「リリアナさん……。あなたは、本当に優しい人ですね」

「そう? 嬉しいな」



 ミハルはリリアナに笑顔を向けた。



「わたしなんて、全然だめだから」

「ミハルちゃんは可愛いから、もっと自分に自信を持った方がいいと思うよ」

「えっ? そ、そうですか? でも、私なんて普通ですよ」



 ミハルは頬を赤く染めながら照れて始めた。

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