第47話 魔王というあり方
「……フィ……オーフィア……」
「オーフィアさん……! オーフィアさん!」
「はっ!」
目覚めるとそこには、ユリスとミハルちゃんがいた。
「ここは……? ってリリアナは! 大丈夫なのか?」
「じっとしてなさい! あなたが一番危険だったんだから!」
ユリスが俺の頭をこつんと小突く。
「いてて……あれ、俺どうなったんだ? ここは?」
「ここは……あなたの家よ」
確かに、周りを見回してみればいつも俺が寝ている部屋だ。
「重傷を負ったからあなたの家まで連れてきて……それで、ミハルちゃんを呼んで治療させたのよ」
「私は治癒魔法も使えるからね、貸し一だよ!」
「そうか……すまないなミハルちゃん」
「どうもー」
一度起き上がり、胸を見る。穴はふさがっているようだ。
「それでリリアナは……」
「ここにいます」
そこには、ちょこんといつものリリアナが座っている。
あの時来ていた黒い服も、羽もそこにはない。
「リリアナ! うっ」
俺は抱き着こうとするが、体が痛みそれを許さない。
「私は大丈夫です……大丈夫ですから……」
かと思うとリリアナの方から抱き着いてくる。
「良かった……」
俺は、彼女の体を抱きしめ返した。
ぎゅーっと、もう、どこにも逃げ出さないように。
「あの……」
「どうした……? リリアナ」
「ちょっと、痛いです」
「あっとごめん」
一度離れる。力が強すぎたか。
「感動の再開はいいけれども……ちょっと現状を整理しなければならないわ」
ユリスが言う。
「おっとそうだな……ガルザスは?」
「消し飛んだわ」
「ええ……」
「リリアナちゃんの力でね……本当、どこからあんな力が出たのかしら」
「うう……」
リリアナが縮こまって困ったようにしている。
「んで、竜達は大騒ぎよ。会議が近いのに仮にとはいえトップがいなくなったんだもの」
「奴らがどうなろうと知ったことじゃねえ。俺が出ていけば黙るだろ」
「まあそうでしょうね……」
ユリスは含みを持たせた言い方をする。
「で、リリアナちゃんだけれども……」
「あいつは……レイジの野郎は「魔王の依り代」と言っていた」
俺はあの時を思い出す。
「なるほど、俺が目をつけるわけだ。リリアナがまさかそんなものとはね……」
「魔王の依り代ってことは」
ミハルちゃんが口を開く。
「魔王そのものって訳じゃないんでしょうか?」
そういって、首を傾げた。
「魔王とは、魂の在り方のようなものだ」
俺は言う。
「勇者が正義を求め人を助ける存在のように、「そうあれかし」と祈りを、呪いを込めてつけられる。わかりやすく言えばそういうステータス、職業、ジョブと言ってもいい」
「ジョブ……?」
ユリスが胡乱な目をしている。
「つまり魔王とは……人間を、世界を破壊する存在。そういう破壊そのものになる。……体の意志に関係なく、そういうふうに精神が持っていかれる」
「そうして、そのレイジとやらはリリアナちゃんに魔王を下ろそうとしている……」
「でも、つまりはですね」
ミハルちゃんがいう。
「今のリリアナちゃんは魔王じゃないってことですよね? それならいいんです」
「ミハルさん……」
「もし魔王だったら……」
ミハルちゃんは目を下ろす。
「私が倒さなきゃいけなくなりますから」
「……」
少し悲しそうにする彼女に、何も言えなかった。
***
「んで」
俺は言う。
「これからどうするかだ」
「……お誘いが来てたわね」
最後のレイジの言葉を思い出す。
「リリアナの父親か……どんな人間だか、覚えてるか?」
リリアナは首を振る。
「まったく、一切……そこだけもやがかかったように、何も思い出せません」
だが、「でも……」と一拍おいてから言う。
「私は、お父さんに会ってみたいです」
そう、もじもじしながら、でもはっきりと、言った。
「よし」
俺は言う。
「行こうか」
「えっ!?」
「ちょっとオーフィア!」
ユリスが焦りながら言う。
「確実に罠よ! 魔王を復活させようとしている奴が、わざわざ誘導してくるんですもの、確実に何かが……」
「でも、このままほおっておくわけにもいかないだろ。それにこれはチャンスだ」
俺はベッドから起き上がる。
「わざわざ敵が、「俺はここにいる」と言ってくるんだ。どっちにしろ探していた相手だ。ここで叩きに行かないわけにもいくまい」
「でも……」
「それに、リリアナ、お父さんに会いたいんだろ?」
「……はい」
そういってこくりと頷く。
「だったら、リリアナの願いはかなえてやらないとな」
「――」
ユリスは、ため息をつく。
「あーもう、こういう時のオーフィアは強情ねほんと……でも、あなたも行くの? 病み上がりよ」
「罠なら、行かないわけにいかないだろ。俺なら大抵のものはうち破れる」
外套をばさりと開き、体にまとう。
「それと……」
「うずうず」
ミハルちゃんがこちらを見ている。
「ミハルちゃん、手伝ってくれないか」
「もちろんです!」
嬉しそうに言う。
「魔王復活の危機とあれば、行くしかないでしょう! 百人力ですよ!」
「はは、まかせたよ」
やれやれ、と肩をすくめるユリス。
「私も行くわよ。見捨てらんないから」
「……すまんな」
「いいわよ。私とあなたの仲でしょ?」
「ああ」
そうして、ガチャリとドアを開く。
「すべての謎がそこで明かされる。行くぞ」
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