第77話


「「「「「……」」」」」


 隣町でゾンビパニックが起きているというイリスの重大な告白に対し、俺たちはしばし無言で困惑した顔を見合わせていた。道理で、ギルド内がこれほどまでに騒がしくなっているはずだ……。


 ゾンビといえば、古代遺跡ダンジョンによく出てくる、アンデッドっていう系統のモンスターなわけだが、それが町中に大量発生するなんて、これは今までになかったとんでもない事態だ。


 スライム→カラス→ゴーレム→ゾンビと、立て続けに起きる変異種パニックに対して理解が追い付かなくなりそうだが、これも錬金使いハンスの乱により生態系が変化した影響が大いにあるってことなんだろう。


 隣町の出来事とはいえ、いずれこっちにも影響が出てくる可能性は充分にあるし、それがなくとも住民たちを救わないという選択肢はない。なるべく急ぐ必要がありそうだ……って、イリスの顔色がやたらと優れないな。気力がかなり下がってるのが目に見えてわかる。


「イリス、何か心配事が……?」


「そ、それが……ラウル様、あそこには私のお婆様も住んでおられるので心配なんです。いち早く異変を察知して遠くへ逃げてくださればいいんですけど……」


「なるほど、そういう事情があったんだな……。お婆さんと連絡は取れない?」


「それが、急いで手紙は出したんですけど、まだ返事は来ないんです……」


「そうか……」


「ラウル様……どうかお力添えください……。私の両親が亡くなったあと、お婆様はまだ7歳だった自分を大事に育ててくださり、ここへ送り出してもらったんです。それに、隣町からはゴーレムの件で多くの人々が訪れ、復興、救助作業を手伝ってくださりました。なので一刻も早く、なんとかしてあげたいんです……」


「……ああ、イリス。もちろん、最初からそのつもりだ。人間はひたすら前へ進むだけではなく、時には立ち止まって助け合うことも大事だからな」


「あ、ありがとうございます……」


 落ち着いて話せるような状況じゃないだろうに、イリスが気丈に立ち振る舞う姿を見て、より一層どうにかしてあげたいと思える。ただ、隣町っていうと確かエレイド山のずっと向こう側だし、そこまで行くのにかなりの時間がかかりそうだが……。


「ラウルよ、困ってるようだな。よかったら私の背中に乗っていくか?」


「あ……そうだった。イブ、お前がいたんだったな。でも、いいのか? 人間の味方をしてるってことになるが」


「それはそうだが、一緒に戦うつもりはないので問題ない。それに、私としても興味深い話だからむしろ歓迎する。人間たちがゾンビに対してどんな戦いをするのか、高みの見物をさせてもらうぞ」


「ははっ、相変わらず悪趣味だなあ……」


 まあどうせそんなことだろうとは思っていたが、イブがいてくれるおかげで非常に助かるのは事実だ。


「よし、それじゃルエス、ユリム、カレン、イブ、先を急ごう」


「「「「「了解っ!」」」」」


 何気にファムも手を上げながら返事してきて少し焦ったが、こういう緊急事態だし周りには気付かれにくいだろう。


 そういうわけで俺たちは早速、元の大型カラスに戻ったイブの背中に乗って、隣町を目指すことに。


 おそらく、今回の相手は不死属性モンスターの変異種だと思われる。


 しかもゾンビ系ってことで現在進行形で数を増やしている様子だが、だからといって問答無用で浄化してしまえば住民を殺すことになる。


 なのでまずは本体、すなわち変異種のゾンビを探し出す作業が必要になるわけだが、アンデッド特有の強烈な死臭で邪魔をされるので見分けるのは困難を極めるだろうし、変異種の進化を食い止めるのは難しいかもしれない。それでも、犠牲者を多く出してしまうよりは遥かにいい。


 イリスの祖母を含めて、俺たちの町を助けてくれた隣町の人々を、時間をかけてでも必ずや救い出さないといけない。その思いはきっと、多少の違いはあれどみんな同じなはずだ。

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