第12話
「――はあ……」
冒険者ギルドの待合室。
俺は朝から晩までずっとここにいて、気付けば溜め息が漏れてしまう。
あれから数日経過したものの、俺を拾ってくれるパーティーは一向に現れなかったからだ。
仲間を募集しているパーティーもあったが、まるで自分を狙い撃ちしたかのように治癒使いだけは除いていた。
その理由は、まだ知らないが察することはできる。多分アレだろう。
俺は周りで行われているヒソヒソ話を、聴覚を活性化させた『盗聴魔法』を使って聞いてみることに。
「ほら、あの席にいる人、見てよ」
「あ、例の噂の人? 治癒使いのラウルだっけ?」
「そそ。役立たずだからってSS級パーティーの『神々の申し子』を追放されたんだって」
「マジでっ……!?」
「本当よ。私、あのパーティーの人たちが以前ここで愚痴ってたの聞いたもん。『もう僕たちのパーティー以外に、役立たずのラウルによる被害者は出てほしくない』って悲しそうに言ってた」
「…………」
俺による被害者は出てほしくないだと……。あいつら、そんなことまで積極的に言いふらしてたんだな。クソッ、どこまで俺を追い詰めれば気が済むんだ……。
だが、それでも恨みたくはない。あいつらに振り回されずに俺は我が道を行きたいからな。
ただ、前回のクエストで得た銀貨一枚も使い果たしたことだし、本日限りで冒険者稼業とはお別れになりそうだ――
「――ラウル様っ!」
「あれ、イリス? そんなに慌てて一体どうしたんだ?」
受付嬢のイリスが書類を手に、転びそうになりながらも俺の席まで駆け寄ってきた。
「はぁ、はぁ……。パ、パーティーが見つかったんです! それも、ラウル様を直々にご指名ですよ!」
「え、ええぇっ……? こんなに自分の悪い噂が流れてる状況なのに、俺を……?」
「は、はい。しかも、かなり有名なパーティーです。最近サポート役の方が抜けたみたいで、その代わりを探していたんだとか」
「へえ……。それで、なんていうパーティーなんだ?」
「なんと、S級パーティーの『聖域の守護者』ですよ!」
「な……なんだって……!?」
どこかで聞いた覚えがあると思ったら、かつて俺が所属していた『神々の申し子』とSS級の座を争っていたライバルパーティーじゃないか。
そもそもSランクパーティー自体、同時に二組も存在しているのはこの町の冒険者ギルドくらいだといわれていて、だからこそ高いレベルでずっと競い合ってたんだ。
なので、俺たちがSSランクまで上り詰めることができたのは、彼ら――『聖域の守護者』の存在があったおかげだといっても過言ではない。
だが……到底解せない。
なんでそんな彼らが俺を指名してきたのか、まったく理解できないんだ。
俺が役立たずだからという理由で追放されたことは耳に入ってるはずだし、何より所属していた頃の『神々の申し子』には散々苦汁をなめさせられてきているのに。
「あれれ、ラウル様、どうなされました?」
「あ、ちょっとね……。前のパーティーにいた頃から、色々と因縁があった相手だから」
「えぇっ!? そ、そうなんですね。私の勉強不足でした……」
「まあ担当じゃないしイリスが知らなくても仕方ない。それに、あいつらとは狩場で何度も小競り合いがあったが、誰かに見られないように密かにやってたしね」
「そうだったんですね……。でも、どうしてそんな因縁のある彼らが、ラウル様をご指名するんでしょう――?」
そこまで言ってはっとした顔になるイリス。
「も、もしかして、恨みを晴らすためでしょうか……」
「いや、それならわざわざメンバーとして指名って形はとらないだろうし、折角イリスが持ってきてくれた案件だからありがたく乗ることにするよ」
「で、でも、そうでもなくても、指名すると見せかけた冷やかしかもしれませんし……」
「大丈夫だ。追放された俺なんかのために、有名パーティーがそこまでやってくれるんだったらむしろ大歓迎だよ」
「ラウル様……。もしあてが外れたら、私……その、責任を取らせてください……」
「え? 責任を取るって?」
「そ、そそっ、そのときにお話しますっ……!」
「…………」
なんだ? イリスが項垂れて耳まで真っ赤にしちゃってる。あれかな、俺なんかのためにパーティーを必死に探したことで体調を崩してしまったんだろうか。
そんな彼女の健気な思いに応えるためにも、俺はここでもうちょっと踏ん張らないとな……。
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