第7話


「――うぁっ……?」


 気を失っていたリシャールが、意識を活性化させる俺の『覚醒魔法』で目を覚ました。


「もう大丈夫だ。傷の手当もしてあるから……」


 俺がそう発言した瞬間だった。ダリアとセインが興奮した様子でリシャールに詰め寄っていった。


「おい、リシャール、てめえ! どこまでラウルに迷惑かけりゃ気が済むんだよ!」


「そうっすよ! ラウルさんがいなかったら、今頃どうなってたか!」


「……ご、ごめん。自分が悪かった……」


 あれだけ勇ましかったというのに、なんともしおらしい態度で涙ぐむリシャール。


「いいんだよ、ダリア、セイン。こうして無事だったんだから」


「いや、よくねえぜ! 今だから言うけど、私たちのパーティーは向こう見ずのこいつのせいでどれだけ評判を落としたことか……」


「まったくっすよ! リシャールが負けず嫌いの性分で暴れるのは今回だけの話じゃないっすからね。さすがのリーダーもあっしも堪忍袋の緒が切れそうっすよ……」


「……ぐぐっ。それなら自分も言わせてもらうけどね、リーダーも普段から酒飲んでばっかりだし、セインだって便乗して暴れてたし……」


「それは、リシャールが迷惑をかけるからだろ! お前のせいで酒の量が増えるんじゃねーか!」


「まったくっす! あんたを止めようとしてあっしも暴れる羽目になるっすよ!」


「むぅっ……」


 いかにも悔しそうに唇を噛むリシャール。もう元の強気な彼女に戻ってる感じだ。


 なるほど、このパーティーが問題ありって言われていたのは、血気盛んな彼女が暴走していたからなのか。


「まあまあ。負けず嫌いなのは悪いことじゃない。むしろ、武器になる」


「……そんなことない。自分はこの性格でよく迷惑かけてる。正直、直せるものなら直したい……」


「ラウル、直せるか?」


「ラウルさん、直せるっすか?」


「いやいや、いくらなんでもそんなものまで治せないし、治す必要もないよ。むしろ、リシャールがもっと強くなりたいならそのままのほうがいい」


「えっ? どういうこと? ラウル」


 リシャールが俺の名前を初めて言ってくれて、それだけでも仲間として認められたみたいで妙に嬉しかった。


「その強いエネルギーを向上心に注ぎ込めば必ず才能は開花する。あっちにちょうどリザードマンがもう一匹発生したみたいだから、今から俺の支援を受けて戦ってみてほしい」


「……で、でも、あれだけ迷惑をかけたのに……」


「そんなことはもう気にしてない。臨時であっても、俺たちは仲間だろ? さあ、一緒に来てくれ」


「……う、うん」


 少しためらいがちだったもののリシャールが承諾してくれたので、俺はダリアとセインの二人と笑って目配せし合った。




『ウガーッ!』


「くぅうっ!」


 俺の支援を受け、リザードマンと交戦するリシャール。相手が一匹だけってのもあって一方的に彼女が攻勢をかけているんだが、相手の再生能力が凄いのと、決め手に欠けているため倒しきれない状況だった。


「リシャール、ヒントをやる。なるべく余計なことを考えずに、心を無にして戦うんだ」


「心を無に……?」


「そうだ。大鎌使いはそれが大事だ」


「はい!」


 素直に応じてくれるようになって嬉しいが、その分なんとかしてあげたいっていうプレッシャーは大きくなる。


 ただ、俺にはかつて、高名な大鎌使いを支援した経験がある。その人物は言っていた。どんなにタフな相手であっても、一撃で仕留められるのが大鎌使いの魅力なんだと。


 それをやるには無心になり、力みをなくすことが肝要だとも。


「――それっ!」


『グガアアアアァァッ!』


「「「おお!」」」


 断末魔の悲鳴とともにリザードマンの体が左右に分かれ、勝負が決した。ただ、リシャールだけは疑うような視線を向けてきた。


「ラウル、今何かしたでしょ」


「……バレたか。リシャールが少しでも無心に近付けるように『瞑想魔法』をかけたんだ」


「め、瞑想魔法……?」


「ああ。『忌避魔法』の応用で、雑念を遠ざけるものだ。でも、がっかりする必要はない。リシャールがある程度無心になれたからこそ俺の魔法が活きたんだから」


「……な、なるほど……すご……」


 ぽかんと口を開けるリシャール。


 それにしても、まさか彼女まで見え見えのお世辞を言うようになるとはな。やっぱりリシャールも『暗黒の戦士』の一人なだけあって、ダリアたちと気性が似ているのかもしれない。

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