第6話
「な、なんだ、すげー速いぞ!?」
「マジ、速度ぱねえっす!」
俺と並走しているダリアとセインが驚嘆の声を上げる。『筋肉強化魔法』を使い、自分たちの下半身だけでなく、上半身の筋力をも活性化させたからだ。
ただ漠然とスピードを活性化させるより、具体的にイメージしたほうが速くなるんだ。というか、これが普通のはずだがダリアとセインがやたらと驚いてるな。演技をしてるようには見えない。
まあ、それまで獣道なので危ないからと使わなかった分、よりスピードを感じただけだろう。
お、まもなく大鎌使いのリシャールと、その先にいるモンスターが見えてきた。よし、ギリギリ間に合った。
『『『――ギュルル……』』』
彼女の前にいるのは三匹のリザードマンだ。鋭い双眸と爪を光らせ、じりじりとリシャールに詰め寄ろうとしている。
『忌避魔法』が切れてないおかげかまだ襲ってはいなかったが、獲物を前に興奮したのか体色が赤く変化していて、飛び掛かるのも時間の問題だった。
「おいリシャール、一人で戦おうとするんじゃねえ!」
「そうっすよ! いくらなんでもあぶねえっす!」
「う、うるさい、近付くなあっ! こいつは自分が一人で倒す……!」
ダリアとセインの言葉に耳を貸さず、大声で撥ねつけるリシャール。
なるほど、負けず嫌いなのがよくわかる場面だが、こうして感情を露にするのを見て少しホッとしたのも確かだった。
ようやくパーティーメンバーとして、彼女の本当の姿を見ることができた気がして。
ただ、状況はかなりまずい。リザードマンはCランクのモンスターだから一匹だと大したことはないが、複数だと周りに合わせて上手く連携してくるので難易度が上がるんだ。
『『『ウオォーッ!』』』
「くうぅっ!」
長く尖った爪だけでなく尻尾も使い、入れ替わるようにして連携攻撃してくるリザードマンを前にして、リシャールは下がりながら鎌で受け流すのみで防戦一方だった。
「私が加勢してやるぜ!」
「あっしも!」
「よ、余計な真似をっ……!」
そう言いつつも、リシャールは苦戦してることがわかってるのかダリアとセインの協力を受け入れる格好になった。
俺も何かしてやれないかと思うが、それをやったらさすがにバレるだろうし、今まで以上に拒否反応を示されるだろうしな。
それに、ダリアとセインはバフで速度が上がってるので三人ならリザードマンにも対抗できるはずだ。
俺の予想通り、ダリアとセインを加えたことで逆にリザードマンを押し返し始めた。
「おらおらおらぁっ!」
「うりゃあぁっすっ!」
『『『グオォッ!?』』』
ダリアの斧がリザードマンの爪だけでなく体ごと弾き飛ばし、やつらの懐に入り込んだセインの短剣、リシャールの鎌がトカゲの尻尾や腕を切り取っていく。
それでもリザードマンは再生能力がとても高く、すぐ腕や尻尾を生やして持ち直していたが、ダリアたちの攻勢が強くなっていって追いつかなくなってきた。
よしよし、この様子なら俺が助太刀しなくても大丈夫そうだな――
「――自分が一気に片付けてやるっ!」
「はっ……」
功を焦ったのかリシャールが深追いしすぎた結果、リザードマンに隙を突かれて尻尾による反撃をもろに食らってしまった。
「ぐあああぁぁっ!」
「「「リシャール!?」」」
リシャールは背中から木に激突して倒れ、意識を失った様子。
それによって戦況は再びリザードマンたちの優勢になり、ダリアとセインは押されていった。あの怪我の様子だと、このまま傍観するのはまずいってことで俺も協力することに。
「ダリア、セイン、あとは俺に任せろ!」
「「りょ、了解っ!」」
俺は追ってくるリザードマンたちの前に立ち塞がると、その場で高く跳び上がって杖で円を描くようにしてやつらの頭を同時に叩いた。
『『『グゲゲッ!?』』』
それからすぐ、三匹のリザードマンはパタリと倒れて動かなくなった。
「え、ラウル、今何やったんだ……!?」
「ラウルさん、それわけわかんねえっす!」
「ああ。簡単に説明すると、杖で叩くと同時に単純な『治癒魔法』をかけてやったんだ。やつらは再生能力が異様に高いから、それも相俟って回復しすぎて細胞が破壊される」
「「……」」
あれ、ダリアとセインが黙り込んでしまった。当たり前のことを偉そうに解説しすぎて呆れられたのかもしれないな。
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