第5話


 オルサム山へと到着した俺たちは、体力的にもまったく問題がないってことで、休憩を挟まずにピンクハーブを探すことに。


「よーし、手分けして探すか!」


「リーダー、それがいいっすね。モンスターが出たときのために、お互いにあんまり離れないようにしたいっすけど」


「いや、ダリア、セイン。そこまでする必要はないよ」


「「「えっ?」」」


「薬草なら、視力を活性化させた『探知魔法』ですぐ発見できるから大丈夫だ」


 きょとんとする三人に向かって俺は説明する。


「「「探知魔法……?」」」


「ああ。これを使えば、空から俯瞰するように広範囲を見渡せる」


「な、なんかよくわかんねーけど……やっぱりラウルはすげーぜ!」


「な、なんなんっすかそれ……。治癒使いなのに探知って……。ラウルさん、脱帽っす。凄すぎっす!」


「いやいや、全然凄くないから」


「………むぅ」


「…………」


 ダリアとセインはいつも通りお世辞を言ってくれて大人の反応だったが、リシャールだけはやはり微妙な感じだった。


 まあこの程度じゃ俺のことを認めてくれるわけがないし、より一層頑張らないとな。




「――ここにあった! もうクエスト達成だぜっ!」


「ヒャッハー!」


 山の急斜面にて、ダリアとセインの歓声が響き渡る。


 これで俺たちは五本目のピンクハーブを採取し終わったわけだが、どれもそう遠くない場所に生えていたこともあって、探し始めてから時間はほとんど経っていなかった。


「よし、これでクエスト完了だから帰れるな! こんだけ早く終わるなんて夢にも思わなかった。順調にいっても半日はかかるのに。これも全部ラウルのおかげだ!」


「ラウルさん、マジ神!」


「いやー、そんなに褒め殺しされても困るって。俺は別に特別なことはなんにもしてないし……」


 現に、俺を追放した『神々の申し子』パーティーじゃこういうことはしょっちゅうしてたが、感謝の言葉すらなかったからな。


 だからって自分が無能とまでは思わないものの、サポート役としては当たり前のことだったんじゃないか。だからこそ、心にもない賛辞を口に出すダリアとセインの優しさが心に染みた。


「……ぐぬぅ」


「…………」


 リシャールっていう鎌使いの子が、いかにも不服そうな声を漏らした。彼女からしてみたら物足りないようだ。まあそうだよな。


 それでも、前のパーティーみたいに文句を言ってこないんだから優しいほうだ。既にクエストを達成してあとは帰還するだけだから、最後まで打ち解けられなくて残念っていうのが俺の本音だ。


 それにしても、この『暗黒の戦士』パーティーのどこに問題があったっていうんだろう? 普通に良いパーティーに見えるんだが。


「――あっ……」


 さあ帰ろうってことで念のために周囲を索敵してみたんだが、300メートルほど先にモンスターが発生したことがわかった。


「ラウル、どうしたよ?」


「ラウルさん、何かあったっすか?」


「ここから300メートルくらい先にモンスターが発生したみたいだ」


「「「っ!?」」」


 杖の先で方向を示すと、ダリアたちがびっくりした顔つきになった。


「それでも、まだ『忌避魔法』の効果を維持できてるから大丈夫」


「「「き、忌避魔法……?」」」


「ああ。だからこっちには近付いてこない――って!?」


 それを言った直後だった。リシャールがその方向へと一目散に駆け出したのだ。


 おいおい、なんだって急に? まさか、モンスターと戦えなくて不満が溜まってたのか?


「あちゃー。遂にやらかしちゃったよ、リシャールのやつ……」


「やらかしちまったっすね……」


「ダリア、セイン。彼女は一体どうしたんだ?」


「あいつさ、超がつくほどの負けず嫌いなんだよ。ラウルの凄さを見て闘争心に火がついちまったみたいだ」


「あの様子だと間違いないっすね」


「えぇっ!? まさか……って、とにかく今は彼女の跡を追おう!」


「「ラジャー!」」


 俺の凄さに触発されたってのはさすがに言い過ぎとして、リシャールの負けず嫌いな性格が事の発端となったのは確からしい。

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