第34話


「「「「ぜぇ、ぜえぇっ……」」」」


『暗黒の戦士』パーティーの面々による、なんとも荒い息遣いが重なり合う。


 受付嬢のイリスを助けたダリアたちは、それからギルド周辺で急に湧いてきたゴーレムたちと戦い、たった今殲滅し終わったものの疲労は限界に達そうとしていた。


「……あー、くったくただぜ……。なんなんだよ、もう。やっと片付けたと思ったら、また一杯出やがって……」


「……ほ、本当にありえねえっすね、ダリア姉さん……。こいつら、一体どこから湧いてくるのやら……」


「……むぅ……。自分も、もう疲れた……。オズ、早く回復してよ……」


「……ふぅ。リシャールよ、わしだって治癒はずっと使っておる。じゃが……お、追いつかんのだ……」


「……みなさん、申し訳ありません。役立たずの私でも、もっとできることが何かあればいいんですが……」


 イリスが水筒や包帯を手に歩き回り、ダリアたちに簡易な治療を施しつつそう零す。


「いやいや、イリス。あんたは役立たずどころか普通にできる人だぜ。オズよりもな!」


「まったっくっす。むしろ、オズよりも役に立ってるまであるっす!」


「うん、まあ、確かに大したことはないと思うけど……オズよりもほんの少し上かな」


「うむうむ。まあそれは否定せん。お嬢ちゃんはわしなんかよりもよっぽど役立っとる!」


「んじゃ、オズは追放な」


「サヨナラっすね、オズ」


「バイバイ、オズ」


「うむ、お別れじゃ――って、お前たちなあっ、そこまで言うかの……!? こうなったらわしの治癒術は金輪際お前たちには使わず、慢性化したぎっくり腰専用にしちまうかのう……!?」


「「「ちょっ……」」」


「ふふっ……」


 ダリアたちの軽妙なやり取りを前に、イリスが口に手を当てて愉快そうに笑う。


「『暗黒の戦士』って、本当に雰囲気の良いパーティーですね。注意マークがあるのが嘘みたいです。あのとき、崖っぷちにおられたラウル様があなた方に救われたと仰っていたのも、よくわかる気がします……」


「残念なことに、わしはそのときおらんかったがのう……。尊敬するラウル先生にわしも一目会ってみたかったものじゃ……」


「ま、そういじけんなって、オズ! あのときもしおめーがいたら人数制限でラウルが入れなかったんだし、いなかったことでちゃんと貢献したんだよ」


「そうっすよ。オズのぎっくり腰に超感謝っす!」


「ぎっくり腰っていうか……それを理由にサボったオズの怠け癖のおかげだと思うけど……」


「ふぉっふぉっふぉ! つまり全部わしのおかげじゃな!」


「「「「「ワハハッ!」」」」」


 それまでの意気消沈した様子が嘘のように大いに盛り上がるダリアたち。


『『『『『ウゴオオォォッ!』』』』』


「「「「「はっ……!?」」」」」


 だが、突如として彼女らの周囲にゴーレムの群れが現れる。それは、かつてないほどの大群であった。


「ち……チッキショー、またかよ! ゴーレムのおかわりなんて私は一言も言ってないぞ!?」


「あ、あっしもっすよぉ……」


「じ、自分も……」


「わ、わしもじゃ……」


「私もです……」


 青ざめたダリアたちが嘆きの声を発するも、ゴーレムたちには当然のように届かず、彼女たちはあっという間に窮地へと追い込まれてしまった。


「むうぅっ……! 自分は負けない、絶対に負けないんだ……!」


 その中でも目立ったのは大鎌使いのリシャールであり、一体二体と連続して瞬殺するだけでなく、重なったゴーレムたちを複数同時に倒すという離れ業もやってのけていたが、まもなく体力に限界が来たのか座り込んでしまった。


「――もう、ダメ……」


 パーティーの頼みの綱が切れたことで、そこにいる誰もが絶望の色を覗かせた直後のことだった。


『『『『『ウグアァァッ……!』』』』』


 その場にが異常な速度で迫ってくると同時、ダリアたちを囲んでいたゴーレムたちが一斉に倒れるのであった……。

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