第33話


『『『『『ウゴオオォォォッ!』』』』』


 冒険者ギルドにほど近い町の中心部にて、ゴーレムたちの咆哮がこだまする。


「な、なんだ、あの変異種ゴーレム!? いつの間にか数が格段に増えてやがる!」


「う、嘘だろ……。一体だけでも手に負えないっていうのに、それがざっと数えても百体はいるぞ……」


「も、もうこの町は終わりだ。逃げろおおぉぉぉっ!」


 急激に数を増やしたゴーレムたちの異様な迫力は、それまで臨戦態勢を整えていた冒険者たちが武器を捨てて一目散に逃げ出すほどであった。


 だが、その場に留まるパーティーもだが存在し、それを遠目に目撃した冒険者たちからは次々と驚嘆の声が上がる。


「お、おい、あいつら見ろ! ゴーレムたちが来るのに逃げようとしないぞ。死ぬつもりなのか……!?」


「って、あのパーティー、どっかで見たことあると思ったら、もしかしてあの問題児連中じゃないか?」


「あっ、本当だ。なんていうパーティー名だっけ?」


「えっと……そうだ、思い出した! A級パーティーの『暗黒の戦士』だ――!」


「――わははっ! 折角私たちがこうして戦ってやってるってのにさあ、随分な言われようじゃねーか!」


 ゴーレムたちに囲まれた『暗黒の戦士』のリーダー、両手斧使いのダリアが豪快な笑い声を上げる。


「まったくっすねえ。あっしらが問題児なら、町を見捨てて逃げ回る連中は問題外っす!」


 じりじりと後退しつつも、アピールするかのように大声を上げる短剣使いのセイン。


「セイン。中々上手いこと、言う……ククッ……」


 大鎌使いのリシャールが噴き出す。


 味方するパーティーが皆無という明らかに苦しい状況であるにもかかわらず、彼女たちの顔に悲愴感は一切見られなかった。


「さあ、いつまでも笑ってねえで、私たちがゴーレムを引き付けてる間に頼むぜ、リシャール!」


「頼んだっすよ、リシャール!」


「あいあい……」


 リシャールの瞳からフッと輝きが消失した刹那。


『グオオオオオオォォォッ……!』


 力みのない動きによって彼女の大鎌が閃き、ゴーレムの体が左右に分かれる。


「やりぃっ! すげーぜ、リシャール! すっかりコツを掴んだんじゃねーか!?」


「この調子ならS級まで行けそうっすよぉっ!」


「……てへっ。まぁ、これもラウルのおかげ……」


 よく見ていないとわからないほど薄く笑うリシャール。


 彼女たちはその調子でギルド周辺に犇めいていたゴーレムをどんどん減らしていき、遂には殲滅することに成功したものの、遠目にはまだ暴れ回るゴーレムたちの姿があった。


「ふう……。こっちは片付いたとはいえ、向こうのほうはまだまだいるなー」


「リーダー、おかしな話っすよねえ。こいつら、倒しても倒してもきりがねえ感じっす……」


「っていうか……変異種って、こんなに湧くんだ……」


「私も妙だと思ってるぜ。なんせ、変異種は一年に一回しか湧かないって聞いたことがあるしよ!」


「なのに、こんなに大量に湧くなんて想像すらしてなかったすねえ。てかオズのやつ、遅すぎっす――」


「――おーい!」


「「「あっ……」」」


 ギルドの入り口からダリアたちに声をかけてきたのは、もう一人のメンバーである治癒使いのオズだった。その傍らには受付嬢のイリスの姿もあった。


「おいおい、オズ、こんなときにナンパしてたのか!?」


「ふぅ、ふぅ……。ダ、ダリアよ、バカなことを言うな! 一人、怪我して逃げ遅れた受付嬢がおったからわしが助けたんじゃ!」


「みなさん、どうもありがとうです。私だけ逃げ遅れてしまい……って、あなた方はもしかして『暗黒の戦士』の方々では……!?」


「お、よく知っとるな! お嬢ちゃんはお目が高い! もしや、わしにホの字かのぉ? イダッ!?」


 ダリアから拳骨を食らい、頭を抱えるオズ。


「やっぱりナンパじゃねーか。てめーはまず私を攻略してからにしろ! ま、無理だと思うが。わははっ!」


「そ、そりゃ、ダリア姉さんを攻略なんて人類には到底無理っす――イダッ!?」


「ったくよぉ。そんなに私の拳骨を食らいたいっていうなら、もっとやるぞ!?」


「「ひぃっ……!」」


 セインとオズが揃って縮み上がる中、リシャールがイリスに対して怪訝そうな表情を浮かべる。


「てか、あんた……なんで自分たちのことを知ってる?」


「リシャール様でしたよね? 実は、あなた方をラウル様に紹介したのがこの私なのです……!」


「「「「えぇっ……!?」」」」


「ラウル様はあなた方との出会いが、人生を浮上させるいいきっかけになったと喜んでおられました。なので、そんな方々がギルドを守ってくれて、本当に誇らしいです……」


「いやー、そう言われると照れちまうな。こっちのほうこそラウルから助けられたからなー」


「まったくっすねえ。ラウルさんには一生頭が上がらないっすよ」


「うん。自分たちが強くなれたの、ラウルのおかげ……。てか、あんたはラウルとどういう関係……?」


 イリスに向かって目を光らせるリシャール。


「えっ……どういう関係って……。その、あえて言うなら、とっても信頼し合っている大人の関係、ですかね? ふふっ……」


「……むぅ。む、無になれ、自分……」


「「「リ、リシャール、落ち着けっ!」」」


 既にリシャールは大鎌を高々と振り上げていて、慌てた様子の仲間たちから制止されるのであった……。

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