第25話


『この私が、必ずや仲間たちの仇を取ってみせる……』


 大型カラスの変異種が威嚇するような低い声を出し、その黒々とした双眸が俺を逃すまいとじっと見据える。


「話がわかるなら、少し待ってくれないか?」


『……ん? 何をするつもりか知らんが、まあいいだろう』


 ダメもとで言ってみたらそう返してきた。さすが変異種。言葉を発せるだけでなく、普通に会話が成立するほど賢いってことか。


 さて、折角待ってくれているんだ。その間に用事を済ませるとしよう。


「ルエス、ユリム、カレン。ここは俺に任せてくれ」


「「「えぇっ……!?」」」


「俺はこのパーティーに入ったばかりの新人だし、しかも一人でやるんだから頼りないと思われるのは仕方ない。けど、変異種に関しては今までの経験があるからそれが活きると思うんだ」


 そう、経験というのは俺にとって唯一、少しは自信がある部分といっていい。


「ラウル君、むしろこっちがお願いしようと思ってたくらいだよ」


「ですです……。ラウルさん、私たちの頼みの綱なのです……」


「うんうん。ラウルはあたしたちの本当の意味での守護者だからね!」


「ははっ……」


 本当にルエスたちはお世辞が巧みで達人の領域だ。あの『暗黒の戦士』も上手かったが、この『聖域の守護者』パーティーはそれ以上だと思う。


「ジャイアントレイブンの変異種、待たせたな。準備完了だ」


『……ふむ。人間よ、仲間たちとのお別れは済んだようだな。これが最後になるだろうが』


「じゃあそっちも、あの世で仲間たちと再会する準備をしておいてくれ」


『ほざくな、人間っ……!』


 変異種カラスが頭の毛を逆立てながら襲い掛かってくる。お、かなり速いぞ、これは……。


『ムッ……!? 上手く避けたな、人間……!』


 想像以上の速さで何度も突進してくる変異種カラス。


 このモンスター、速度だけじゃない。でかいのに小回りが利き、機動性も兼ね備えている。


 さらに、色んな角度から飛び掛かってくる等、動作がワンパターンにならないようにしているし、会話もできるだけあってまさに人間並みの知性を感じさせる。


『どうした、逃げるだけか、人間よっ……!?』


「…………」


 その上、長い舌を覗かせて挑発行為までしてきた。モンスターのくせに面白い。それなら乗っかってやろうじゃないか。


 俺は『筋肉強化魔法』に加え、精神の深い部分を活性化させる『覚醒魔法』を併用することに。


 これはエネルギーの消耗が異常に激しくなり、『自動大量回復魔法』でも治癒が追いつかなくなるため短時間しか使えないが、物理と魔法の両面を限界まで強化することが可能になる。


 そういうわけで俺は自身の膂力と魔力を一気に引き上げると、変異種の懐へ飛び込むとともに杖で殴りかかった。


『ぬあっ……!?』


 それがやつの脳天に命中し、もんどりうって倒れ込む。自分がこうしようと思ったときにはもう結果が出ている感じだ。


「「「おおぉっ!」」」


「おいおい……この程度で終わりなのか?」


 ルエスたちの歓声をバックに今度は俺が挑発してやると、やつは変異種のプライドも手伝ってかすぐに起き上がってきたが、かなりダメージがあったのかフラフラの様子。


『……ぐ、ぐぬぅ……。や、やるな、人間……。さあ、来い。私はもうダメだ。とどめを刺せっ……!』


「そうか。中々潔いカラスだな。だったら、そこで待ってろ。今すぐ仲間たちの待つあの世へ送ってやる!」


 俺はまっすぐやつの側へと駆け寄っていったが、その寸前で黒い体が消え去るのがわかった。あれ――?


「――はっ……」


 その直後、俺のすぐ背後から変異種の気配を感じた。


 そうか、ここで例のを使ったのか。やるな……。


「「「ラウルッ!?」」」


 俺の体が、大型のクチバシと爪でズタズタに引き裂かれていく。


『フハハハハッ! あの世で私の仲間たちに詫びを入れるがいい、人間よ――はっ……!?』


 変異種が驚いた反応を見せるのは、やつがバラバラにしたのが俺の残像だったからだ。


 それを活性化させたため、残像はより長く留まり本物っぽく見えたんだろう。


『ゴガアッ!?』


 背後からまたしても俺の杖を食らった変異種は、本来のカラスっぽい悲鳴を上げつつ何度も地面を転がり、仰向けに倒れてピクピクと足を痙攣させた。あれじゃもうしばらくは動けないし、隠れることもできないだろう。


『……グ、ググッ……。み、見事だ、人間よ……』


「やった! さすが化け物――いや、ラウル君っ!」


「見惚れてしまいます……ラウルさん……」


「もうラウルに一生ついてくわ!」


「…………」


 ルエスたちからいつものオーバーな誉め言葉が飛び出す中、俺は無言でやつのもとへと歩み寄っていった。

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