第64話
「……はぁ、はぁ……」
気が付くと、ルエスが大きな体を屈めて荒い呼吸を繰り返していた。
さながら、バルドとのリーダー対決の真っ最中であるかのようだが、実はそうじゃない。
バルドたちに体調云々の言い訳をさせないため、念押しする形で少し休憩を挟んでから決闘をやることになったわけだが、時間が経つにつれてルエスの様子がおかしくなっていったのだ。
「ル、ルエス、大丈夫です……? さっきから足がガクガク震えてますよ……」
「んもう、ルエスったら、この手で制裁するとかあんなに格好良く決めてたのに、一体どうしちゃったのよ……」
「……ぼ、ぼ、ぼぼっ、僕は、だい、だいっ、大丈夫だからっ……」
「「「……」」」
ユリムとカレンが心配そうに声をかけるも、ルエスがさらに緊張した様子を見せるという負の連鎖。
ただ、俺はリーダーが急にここまで固くなってしまうのもわかる気がした。
ユリムとカレンが勝って2勝したことで、もう勝負は決したと思って一度気が緩んでしまったせいもあるんだと思う。
そんな夢心地の中で急遽バルドと戦うことになり、最後の決戦が近付いてきたところでようやく実感が湧いてきて、夢から覚めたかの如く緊張が極限まで達してしまったということだろう。
治癒使いとしてはルエスを支援してやりたいところだが、ここは呪われた森だからそれができないのがなんとも歯痒い。
よーし。ここは一か八か、アレを使ってみるか。
「なあ、ルエス」
「……あ、あ、ラ、ラウッ、ラウルルッ、君っ、な、なななっ、何、かな……?」
「…………」
こりゃあ思ったより重症だな。このままいけば、ルエスは間違いなくバルドに負けてしまうだろう。
だからこそ、伝えなきゃいけない。俺はここでルエスをあることを言って励まさないといけないんだ。
「もうすぐ最後の決闘が始まるが、このままだとルエスは絶対に負けてしまう。だから、もっと緊張してほしい」
「う、うん、わかった。も、もっと緊張するよ……って、ラ、ラウル君、そ、それは。ど、どどっ、どういう意味なんだい……!?」
「ラ、ラウルさん……? もっと緊張してほしいとは、どういうことなんでしょうか……?」
「もっと緊張してほしいって……。ラウルまで、一体どうしちゃったの……?」
俺の発言に対し、ルエスだけでなくユリムとカレンもびっくりした顔で注目してきた。それでも何か意図があると思ってるのか、みんなそこまで疑ってる様子はないが。
「今から想像するんだ、ルエス。バルドと戦ってるところを」
「……え、えぇぇっ……!?」
ルエスはギョッとした顔をしつつも、俺に言われた通りイメージしたらしく、ただでさえ悪かった顔色が見る見る青白くなっていく。まさに顔面蒼白だ。
「……も、ももっ、もう無理だ、怖くて戦えない……」
ルエスはとうとう倒れるようにしてその場に座り込んでしまった。そんな彼を見てユリムとカレンも不安そうだし、そろそろネタバラシをする頃合いだな。
「よし、ルエスの心の治療は完了した」
「「「ええぇっ……!?」」」
「体の免疫機能を高めるやり方の一つに、裸で冷水を浴びるというものがある。それは精神に対しても同じことがいえるんだ。極限状態まで自分を追い詰めることで、そのあとは逆に落ち着いてくるはずだ」
「……へ、へえ。そんな効果が……って、本当だ。なんだか楽になってる……!」
「「「おぉっ……!」」」
それまで、プルプルと体を震わせていたルエスだったが、普通に喋れるようになるまで回復していた。支援魔法が使えないからこその話術だが、どうやら効果があったようだ。
「ルエス、立てます……? 手伝うですよ……?」
「ルエス、立てないなら手伝おっか?」
「だ、大丈夫みたいだ……」
自力で立ち上がってみせたルエスは、もうすっかり元通りの姿になっていた。あれだけ緊張していたのが嘘みたいだ。
もちろんまだ100%の状態とはいえないと思うが、これならいけると確信できるものだった。俺たちの頼もしいリーダーなら、確実にバルドを打ち負かしてくれるはずだ……。
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