第65話
この上なく重々しい空気というものを実感したいなら、呪われた森の中でも最早この場所、この瞬間しかありえない。
ここにいる誰もがそう肌で感じ、確信し、まばたきすら軽々しくできなくなるほどに、重厚感のある空気のもとで最後の決戦が行われようとしていた。
「「……」」
SS級パーティー『聖域の守護者』のリーダーである盾使いのルエスと、A級パーティー『神々の申し子』のリーダー、両手剣使いのバルドが中央で睨み合う。
「いいか、ルエス、よく聞くがいい……。貴様らにその座は似つかわしくない。そのことを僕がこれから証明してみせる」
「証明だって? 本来ならもうこっちの勝ちってことで勝負は終わってるのに、往生際が悪いとはこのことだね、バルド君」
治癒使いのラウルの話術で立ち直ったルエスだったが、宿敵であるバルドを前にしてその声は僅かに震えていた。
「フン、そこは往生際が悪いのではなく知恵が働くと言え。それより、ルエス。僕は知っているぞ。あのことを……」
「あ、あのこと……?」
「お前の元仲間だったウッドから聞かせてもらったぞ。貴様は元々、僕のように両手剣使いだったそうだな?」
「……そうだけど?」
「やはりそうだったか……」
バルドがにんまりと嫌らしい笑みを浮かべてみせる。
「盾使いのようなマイナーな職に、最初からなろうと思ってなるやつはいない。要するに、両手剣使いとして失格の烙印を押されたお前は、渋々盾使いに転向したというわけだ」
「…………」
「恥ずかしいとは思わないのか? 盾使いというのは、両手剣使いで成り上がれなかった、いわゆる無能の負け犬が最後の最後に辿り着く職業なんだぞ……?」
嘲笑交じりに話すバルドだったが、それに対してルエスは悔しそうな顔を見せるどころか、口元に涼し気な笑みを浮かべてみせるのだった。
「なんだ、ルエス? 貴様、何がおかしい? それとも、僕の前で恥をかかされすぎて気でも狂ったのか?」
「いやいや、そうじゃないよ。嬉しくなって、つい笑みが零れたってわけさ。挑発してくれて、どうもありがとう」
「何……?」
ルエスの台詞に対し、怪訝そうに片方の眉をひそめるバルド。
「正直ちょっとはむかついたけど、これで緊張しなくて済みそうだよ。一番はラウル君の話術のおかげだけど、バルド君が挑発してくれたから一層燃えてきたってわけさ」
「ハッ、雑魚が燃えたからなんだというのだ、こんの両手剣使い崩れの、出来損ないの盾使いめが」
「オッホン……。二人とも、やる前に盛り上がるのは結構なことですがな、そろそろ戦う準備はできましたかな?」
立会人がそう切り出すと、ルエスとバルドは揃ってうなずいてみせた。
「うん、大丈夫だよ」
「フンッ、こんな出来損ないの雑魚、僕が瞬殺して終わらせてやるからとっとと始めるがいい!」
「とはいえ、これでいよいよ決着するわけでしてな、一応十秒数えますぞ。十、九、八――」
「――バカめ、その必要などない! 貴様、さっさとそこをどけっ!」
「ぬわっ……!?」
立会人を強引に押しのけたバルドが、そのまま両手剣を振り上げて盾使いのルエスに襲い掛かる。
「ルエスウウゥッ、貴様如きがSS級など名乗るのは百年早いわっ!」
「…………」
バルドの猛攻に対し、少しずつ後退しつつも盾で淡々と受け流すルエス。
「僕がすぐにひざまずかせてみせるっ! こんのゴミマイナーの盾使いめがっ、クソ雑魚めがっ、出来損ないめがあああぁっ……!」
それからまもなくのこと、バルドの息が早くも荒くなっていく。
「……はぁ、はぁぁっ……き、貴様っ、守るだけか……!? 男として、情けないと思わないのか……!?」
「……守るのが情けないだって? いや、違うね、バルド君」
「は、はぁ? ここまで一方的に攻められながら、違うだと……? 貴様、雑魚な上にアホなのか……!?」
「それはどっちかっていうと、戦いが始まったばかりだっていうのにもう息が上がってる君のほうだよ。そろそろ反撃させてもらう……!」
「……な、何っ……!?」
防戦一方だったルエスが言葉通り反攻に転じ、バルドの充血した赤い目がこの上なく見開かれるのであった。
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