第66話
「ぐぐっ……!? ル、ルエス、貴様、正気なのか!? 盾は攻撃する道具じゃないぞ……!?」
ルエスの盾を駆使した強烈なプレスと突進に対し、驚愕した様子で何もできずに後退りするバルド。
「はっはっは! 考えが浅はかだったね、バルド君。盾は攻撃から身を守るだけでなく、こうして武器にもなるんだよ!」
「ぬうぅうっ……! で、出来損ないの盾使いめがっ、調子に乗るなっ! こうなったら、僕の本当の力を見せてやる! うおおおおおおおぉぉっ!」
「くっ……」
狂ったように雄叫びを上げながら剣を振るうバルドに対し、ルエスはまたしても押される格好になる。
「どうだっ、見たかああぁっ! 盾は所詮防具だっ! 守ることしかできないポンコツだっ! ルエスッ、貴様は結局、両手剣使い崩れの出来損ないなのだっ……! ぜぇっ、ぜえぇっ……!」
「……大分息が上がってるみたいだけど、大丈夫なのかい?」
「だ、だ、黙れええぇっ……! はぁ、はぁ……た、体力が尽きる前にだな……よっ、余裕で貴様の首を刎ねてみせるわっ……!」
しかし、バルドは防戦一方のルエスを中々仕留めることができない。
それどころか、何度剣を振り回しても盾にしか命中せず、無駄に体力を消耗するばかりであった。
いつしか、呪われた森には何かを暗示するかのように雨が降り注ぎ始めた。
「……バルド君。基本的に、盾使いが守ることしかできないのは否定しない。でも、それが僕の存在意義だから」
「……は、はあ……? ルエス、貴様、マジで頭がおかしいのか? ふぅ、ふうぅっ……き、気持ちの悪いやつめ……」
「なんとでも言ってくれ。それが僕だから。両手剣使いを諦めたことについては後悔もある。もっと続けていればよかったかもしれないって」
「……う、うるさい、黙れっ……! 雑魚の貴様の話など聞きたくもないわ。死ね、くたばれ、このクソゴミがああぁっ……!」
「それでも、君みたいに積極的に攻撃するより、守るほうが好きだって気付いたから……だから、もう一度生まれ変わったとしても、僕は盾使いになるよ」
「……クソの出来損ないめが、才能がないだけの癖して、またしょうもない言い訳か! ぜぇっ、ぜえぇっ……こ、こんの無能めが、役立たずめが、汚物使いのラウル二世めがあぁぁっ……!」
ルエスに次々と罵声と攻撃を浴びせかけるバルド。自身が泥まみれになっていることに気付く様子は微塵もなかった。
「何を考えてるのか知らないけど……君のその発言を聞く限りだと、ラウル君を戻そうっていうのは本心じゃなさそうだね。どうせ、奴隷のようにこき使うつもりだろう……?」
「……だっ、だからなんだというのだ……! 汚物使いのラウルと同類のゴミムシめがっ、いい加減くたばれええぇっ……!」
「僕の悪口を言うのは構わないけど、ラウル君の悪口を言うのは絶対に許さない」
「……なっ、何ぃっ……!?」
ルエスの目の奥に光が宿るのを見て、バルドがはっとした顔になる。
「このときを待っていたんだ。君の体力が限界に近付くのを、じっと我慢して待っていた」
「……だ、だ、だからなんなのだ……!? この僕が、ゴミマイナーの盾使いなんぞに負けるわけがないだろうがっ――!」
「――それはやってみなきゃわからないよ。はあああぁっ!」
「ぐうぅっ……!?」
威勢のいい言葉とは裏腹に、バルドはとうとう本格的に押され始める。
「粗暴な君にはわからないだろうけど、盾使いになって一番よかったのは、この手でみんなを守っているって事実を実感できることだ」
「……ふぅ、ふうぅっ……だ、黙れぇっ……。ゴ、ゴミが、クソの、無能めがあぁ……!」
「そのためにはパワーをつけるだけでなく、ときには後退しながら受け流すことや、慎重に周りの様子を窺う忍耐強さも大事だって気付いた」
「……だ、だ……黙れって、言ってるだろうが……。こんのクソ無能の、ゴミの、出来損ないめがあぁぁぁぁっ! はっ……!?」
バルドはルエスの地味なシールドプレスの連続によって、とうとう両手剣を落としてしまう。気付かないうちに彼の握力も限界に達していたのだ。
「勝負あったね。まだやるかい……?」
「……ぐ、ぐぐっ……」
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