第63話


「ふふっ。どう? 遂に勝ったわ! あたしの勇姿、見ててくれたかしら? ラウル、ルエス、ユリム!」


 これでもかとどよめきが上がる中、カレンが喜びを爆発させた様子で俺たちのもとへと帰ってきた。


「「「……お、おめでとう、カレン……」」」


「ん? みんなどうしたの? さっきから変なものを見るような顔して……あ……」


 カレンはようやく気付いたようだ。自身の服がエミルの風魔法ウィンドカッターでズタズタに引き裂かれ、裸同然の格好になっているということに。


「きゃああああっ!」


『修繕魔法』をかけてやりたいところだが、ここは呪われた森なので支援魔法が一切効かないんだよな。まあ大事なところはかろうじて隠れていたから大丈夫だろう、多分……。


 それでも、恥ずかしさより勝ったことの嬉しさが勝ったのか、カレンはユリムに貸してもらった上着を羽織ると舌を出して笑い、愛嬌を振りまいていた。


「いやー、あっけなかったが実に立派であったぞ。さすが、この国に一つしかないSS級パーティー『聖域の守護者』だ!」


 まもなく王様も近付いてくるとともに祝福の言葉をかけてきた。ちょっと前までカレンがああいう格好だったからか、空気を読んで少し時間を置いたらしい。


「「「「「――こやつ!」」」」」


 ん? 兵士たちの怒号とともにどよめきが上がったと思ったら、その先に顔を真っ赤にしたバルドの姿が見えた。


「お、王様ぁああー! どうか……どうか、僕たちにもう一度チャンスを!」


 なんだよあいつ。もう勝負は終わったはずなのに、本当にしつこい男だな……。


「ラウルよ、やつはああ言っておるが、どうしたものだろうか? 今回ばかりは話を聞かずに追い払うか? 余のことは一切気にしなくてもよいぞ?」


「…………」


 王様、そう言いつつも目をキラキラさせてるし、凄く話を聞きたそうだな。


「話くらいは聞いてもいいんじゃないですか」


「おおっ、そうか、では兵士たちよ、罪人――いや、バルドをここまで連れてまいれっ!」


「「「「「はっ!」」」」」


 兵士たちに連行され、王様の眼前でひざまずいたバルドは、本当に罪人であるかのように凶悪な人相をしていた。確かに以前から眼光の鋭い男ではあったが、これほどまでに悪人面じゃなかったような……。


「では、バルド、話を聞かせてもらうぞ」


「は、ははあっ! 王様ぁっ……! この戦いは、明らかにでありますううぅうっ!」


「「「「「ザワッ……」」」」」


 バルドの台詞で周囲が色めき立つ。一体何が不当だっていうんだ。


「むう? バルドよ、この戦いの何が不当なのか、具体的に申してみよ! 余には至って正当に見えたが……?」


「恐れながら、王様ぁ! 正直に申し上げます! 先程戦ったシェリーとエミルは、朝から不調だったのですううぅっ!」


「なんだと? 不調だった?」


「ははあぁっ! 極度の緊張からか、シェリーは腹痛気味で、エミルは頭痛が酷く、到底戦えるような状態ではなかったのです……。ですので、この決闘は不公平でございますううぅっ!」


「「「「「……」」」」」


 バルドの苦しい弁明に対し、俺を含めてみんな呆れ果てたらしく、開いた口が塞がらない様子。


 それから少し経って、王様が溜め息混じりに声を絞り出した。


「……それで、お主は一体どうしてほしいのだ? 調子が悪かったのが本当だったとしても、最初からやり直すのは絶対に許さんぞ!」


「そ、それはもちろんです。なので、リーダー同士の戦いで決着をつけてほしいのです、王様ぁぁ!」


「それで負けたら、また調子が悪いとか言い出すのではあるまいな?」


「い、いえっ! 僕は今絶好調でありますから、負けたら絶対に言い訳しないですうぅっ!」


「ふむぅ……どうする? ルエスよ。この勝負、受けなくてもよいのだぞ」


「いえ、王様。僕は受けて立ちます」


「「「ル、ルエス……!?」」」


「大丈夫だよ、ラウル、ユリム、カレン」


 ルエスは穏やかな笑みを浮かべつつ続けた。


「こういう連中は徹底的に叩き潰す必要がある。そこまでしないとわからないんだ。それに、バルドはラウル君を追放した張本人だから、この手で制裁しておきたいというのもある」


「ルエス……」


 こんな理不尽な要求、受ける必要なんてまったくないのに、そこまで俺のことを思ってくれるなんてな。


 ただ、俺としてはこういう展開になることも一応想定していたので問題ない。狡賢いバルドたちのことだから何か裏がありそうだが、あいつらの思い通りにさせないためにこっちも色々と準備しているんだ。

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