第59話
「それは聞き捨てならないね、バルド君……」
バルドの衝撃的な台詞からまもなく、怒りを滲ませたような声を発したのは、俺たち『聖域の守護者』パーティーのリーダー、ルエスだった。
「その節穴の目でラウル君を追放しておいて、今更呼び戻すだって……? 君たちは恥というものを知らないのか……!?」
「そうですよ、ルエスの言う通りなのです……。ラウルさんの気持ちも考えずに、よくそんなことが言えますね……」
「そうよ、ふざけないで。薄情者のあんたたちのところなんかにラウルが戻るわけないし、絶対に渡さないんだからっ!」
「ルエス、ユリム、カレン……」
仲間たちの言葉が心に染み渡り、俺は熱いものが込み上げてきた。ここを離れる理由も、あいつらのところへ戻る理由も、そんなものは一切ありはしない。
「ク……ククッ……ハハハハハッ……!」
だが、そんな反応さえも踏みにじるかのように、バルドが大声で笑い始めた。
「ふむ? 実に奇妙な男だ。バルドとやら、一体何がそんなにおかしいというのだ?」
「プククッ……い、いや、だって災害級のモンスターに逃げられた人たちなのに、よくそんなことが言えるなって思いまして……ププッ……し、失敬。シェリー、エミル、お前たちもそう思うよな……?」
「ええ。ちゃんちゃらおかしいです。かつて私たちはラウルとともに災害級モンスターを見事に倒してみせましたが、それに比べて彼らはどうです……?」
「……ラウルがいたのに、失敗した……。おかしい……ププッ……」
「「「くうぅっ……!」」」
「…………」
なるほど。彼らが何を言いにきたのか、大体全体像が見えてきた気がするな。自分らのほうがルエスたちより強いからってことで俺を呼び戻そうってわけか。何か裏があるかもしれないが。
「ふむ……。まあお主らの言うことも一理なくもない。しかしだな、そのたった一例だけで決めつけるのはどうかと余は思うし、いくらなんでも虫がよすぎるというものではないか……?」
「「「うっ……」」」
さすが王様だ。俺の言いたいことを言ってくれた。だが、バルドたちは苦々しい顔をしつつも表情は依然として強いままで、引き下がる様子は微塵も見られない。
「そ、それは確かに王様の仰る通りです。一例だけで決めつけることなどできないでしょう。なので、僕たちから王様に提案があります!」
「提案だと?」
「はい。ラウルを賭けてルエスたちと勝負させてほしいのです。僕たちのほうが強いだけでなくラウルと相性がよく、この国のためにより貢献できる自信がありますので……。もちろん厚かましい提案だと思いますので、僕たちが負けたらパーティーを解散させるというのはどうでしょうか?」
「ふむ……中々面白い話ではあるが、それは余が独断で決められることではない。ラウルたちよ、嫌なら――」
「「「――やりますっ!」」」
「なっ……」
俺は断ろうとしたものの、ルエスたちがはっきりと受諾してしまった。
「ルエス、ユリム、カレン、あいつらの要求なんか呑まなくても……」
「いや、ラウル君。この際だから見せてやるよ。君なしでも必ずや彼らに打ち勝ってみせるところを!}
「……ラウルさん、大丈夫です。絶対、私たちが勝ちます……」
「ラウル、見てて。こんなやつら、さっさと負かしてすぐに解散まで追い込んでやるわよ!」
「「「……」」」
俺たちのやり取りに対し、バルドらがにんまりと笑い合うのがわかった。何か策があるのかもしれないが、ここでやめさせると仲間を信頼してないとか自信がないとか言いふらされる可能性もある。
「ふうむ。面白いものが見られそうだし、余は実に楽しみだ!」
「…………」
何より、王様が期待しているので引き下がるわけにもいかなかった。これもバルドたちにしてみたら計算済みか。
おそらく、一切の支援や治癒が効かなくなるという呪いの森で決闘をするつもりなんだろう。災害級のモンスターに逃げられたことを知って、俺の治癒が通じなければルエスたちには勝てると踏んでるんじゃないか。
ただ、もしバルドたちにそういう狙いがあるとしたら考え方が甘い。
あいつらは俺の支援を受けてもそれが当たり前だと思っている風だったが、ルエスたちはそうじゃない。サポートを受けたときの状態に近付くべく自身を高めようと努力していたから、必ずその差が出てくるはずだ。
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