第60話


「「「「「ザワッ……」」」」」


 無数の不気味な枯れ木群が見下ろす、郊外に位置する呪われた森。


 遥か昔、一人の魔女が生きたまま焼かれた森として知られ、普段は誰も寄り付かない閑散とした場所が、今日に限っては異様な盛り上がりを見せていた。


 それもそのはずであり、これから治癒使いのラウルを賭け、SS級パーティー『聖域の守護者』とA級パーティー『神々の申し子』による決戦が行われようとしていたのだ。


 さらに王様が聖覧する御前試合ということもあって、周囲には兵隊やギルドの関係者だけでなく、噂を聞きつけた野次馬たちの姿も散見できた。


 まもなく音楽隊によるファンファーレが盛大に鳴り響き、どよめきとともに小鳥の群れが一斉に飛び立つ中、選ばれし立会人が決闘場所の中央まで厳かに歩を進め、咳払いとともに勇ましい声を上げる。


「オッホン! えー、これよりまもなく、二組のパーティー、『聖域の守護者』と『神々の申し子』のメンバーによる決闘を執り行う! リーダーを除く同職同士が1対1で戦い、先に2勝したパーティーが勝利とする!」


「「「「「ウオオオォォッ……!」」」」」


 集まった人々の拍手と歓声に押し出されるようにして、まず中央に出てきたのは『神々の申し子』の一人、片手剣使いのシェリーであり、少し遅れてやってきた同職のユリムと向かい合う格好となった。


「お久しぶりですねえ、ユリム」


「……は、は、はい、シェ、シェリーさん……」


「あらあら、そんなに声が震えるほど緊張してらっしゃって、果たして大丈夫なのですかね? こんなことでは勝負にすらならないのではと、戦う前から心配になってしまいます」


「……あ、あなたに心配なんかされたくないです……」


「フフッ。強がっているのは丸わかりですよ」


「うぅ……」


 青ざめた顔で口元を引き攣らせるユリムとは対照的に、余裕の表情で舌なめずりをしてみせるシェリー。


「それにしても、ユリム。あれから随分と出世したようですけれど、その席は本来、私たちが座るべき場所なのはちゃんと理解できてますか?」


「そ、それは違います……」


「はい? 何が違うというのですかね? 変異種ゴーレムに逃げられた挙句、進化までさせてしまった戦犯のあなた方にSS級という称号は相応しくありません。よって、速やかに私たちが勝利し、ラウルも返していただきますね」


「……そ、それは、やってみないとわかりませんです……。あ、あなたたちには、この座も、ラウルさんも……絶対に渡しません……」


 弱々しくもユリムがそう返すと、シェリーが威嚇するように目を吊り上げてみせた。


「へえ。私の前だと気圧されて何も言えなかった子が、よくぞここまで成長したものですね。それとも、弱々しい振りをしながらも、バカな男二人を手玉に取っていたのでしょうか」


「…………」


 シェリーの嘲笑交じりの発言を聞くなり、目の色が変わるユリム。


「シェリーさん、あなたに何がわかるっていうです……? 私のことをバカにするのは一向に構いません。でも……大切な仲間を侮辱するのはおやめください……!」


「あらあら。こんなところでも周りに対して純情な乙女アピールですか。とっても素晴らしい心がけですねっ」


「オホンッ。えー、二人とも、勝負をする前に盛り上がるのは結構なことですが、そろそろ準備はよいですかな?」


「は、はいです……」


「了解です。ま、どうせあっけなく終わりますけれど」


 立会人の催促に対し、うなずきつつ距離を取るユリムとシェリー。


「えー、それではこれより、十秒後に決闘を始めるものとする!」


「「「「「――ワアアアァァッ!」」」」」


 それからあっという間に十秒が経過し、因縁の深いパーティー同士の決戦がいよいよ幕を開けるのであった……。

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