第17話


「チッキショウ! 酒だっ! 酒をもっと持ってこい!」


 冒険者ギルドの一角にて、空き瓶を叩きつけるように置くバルド。


「バルド……もう自棄酒はそれくらいにしましょう。まだお昼なのに」


「そうよ、バルド、今はお酒なんて飲んでる場合じゃないわよ――」


「――んなことくらい百も承知だ! 酒でも飲まなければやってられんだろうが! 畜生……。必ず、見返してやる。SS級パーティーの僕たちの力、雑魚どもに思い知らせてみせる……」


「それなら大丈夫ですよ、バルド。私たちの調子が悪かっただけなのははっきりしてますから」


「そうよ。高級ポーションのおかげで傷だってすっかり治ってたんだし、色々とタイミングが悪くて不運が重なっただけだと思う」


「……そう、だよな。確かにどう考えてもシェリーとエミルの言う通りだ。やはり運が悪かっただけで、役立たずのラウルなど初めから必要なかったということではないか!」


 大声で叫ぶバルド。険しかった赤い顔には、一転して晴れやかな笑みが浮かんでいた。


「ふふっ、バルドったらあんなに荒れていたのにすっかり元通りですね。ただ、私たちの服装まで整っていたのは一体どういうことでしょう?」


「シェリー、それはあれじゃない? あたしたちは満身創痍の状態だったわけだし、意識が朦朧としてたときにいつの間にか着替えてたとか」


「フッ。エミル、その可能性は充分にありえるな……。なんせ、僕たちはSS級パーティー。いつも地味な服ばかり着ていた汚物使いのラウルと違い、見た目は常に意識していたわけだから、無意識のうちに着替えていたのだ」


「それが正解ですね」


「ほんっと、悩んで損しちゃったわ」


 彼らはお互いに満足げにうなずき合うと、リベンジとばかり早速一つの依頼を受けることに。


 それは、古代遺跡ダンジョンのA級のモンスター、エンシェントマジシャンを5体倒せというS級のクエストだった。


「ククッ。見ているがいい……。軽くこのクエストをこなし、ラウルがいかに役立たずのクソ無能だったかを証明してみせる……」


「いいですね。そのついでに、あのイザベラとかいう生意気な受付嬢にひざまずかせましょう」


「いいねえ。ポンッと即行で終わらせて、あたしたちの力を見せつけた上で脅してやればさ、そのまま恐ろしくなって受付嬢すら辞めちゃうかもよ?」


「「「アハハッ!」」」


 しばらく笑い合ったのち、ダンジョンへいそいそと向かうバルドたち。


 彼らは急ぎ足かつ無我夢中で走ったため、あっという間に目的地のエンシェントマジシャンが出現する区域へと到着することになる。


「――はぁ、はぁ……フッ、もう着いたか……。というわけだ、シェリー、エミル。前回失敗したのはまぐれだから、以前と同じ戦法でいくぞ」


「ぜぇ、ぜぇ……そ、そうですね。それでいいかと思います」


「ふぅ、ふぅう……。う、うん。あたしたちにはなんの問題もなかったわけだしねっ」


『……ブツブツ……』


 それからまもなくのことだった。


 彼らの眼前に黒いフードを被った古代魔術使いエンシェントマジシャンが一体登場し、大魔法の詠唱の開始とともに巨大な魔法陣が現れた。


「よし、一気に叩き潰すぞ! やつには詠唱妨害が通用しないが、大魔法が発動する前に倒せばいいだけだ!」


「「オッケー!」」


『ウゴオオォッ……』


 だが、エンシェントマジシャンは三人による攻撃をまともに受けても中々倒れなかった。


「なんだ、こいつ!? 何故だ、何故倒れない!? 早く、早くくたばるがいいっ!」


「ど、どうして倒れないのですかあぁっ!?」


「さっさと死んでよ、もおぉっ!」


 バルドの両手剣が唸り、シェリーの片手剣が閃き、さらにエミルの風魔術ウィンドカッターが炸裂するが、モンスターは彼らを嘲笑うかの如く倒れようとしない。


 それから少し時間を置いたのち、魔法陣が怪しく輝き始める。それは、大魔法が発動するまで三秒しかないというサインでもあった。


「こ、このままじゃやつの大魔法が発動してしまう! にっ……逃げるぞおおぉっ!」


「ちょ、ちょっと待ってください、バルド! 自分だけ逃げないで!」


「ま、待ってよ、バルド、シェリー――あっ……!」


「「っ……!?」」


 バルド、シェリーに続いてエミルが逃げようとするもバランスを崩して転倒し、体の横半分が魔法陣の中に入った状態で大魔法が発動する。


「――ぎゃあああああぁぁぁぁっ!」


 周囲を埋め尽くさんばかりの、分厚い炎に巻き込まれたエミルの悲鳴がこだました。

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