第53話


 進化した変異種ゴーレムがいずこへと失踪し、町の人々の混乱状態スタンピードがとりあえず収束したこともあり、冒険者ギルドの会議室では功労者やそれ以外の処遇を決める話し合いが執り行われていた。


「S級パーティー『聖域の守護者』の今回の働きは、実に見事であったそうだ。進化した変異種ゴーレムに逃げられたとはいえ、錬金使いのハンスを相手に最後の最後まで勇敢に戦い、町を守り切ったと聞く。よって、最高ランクであるSS級への昇格を検討しているのだが、ここにいる皆の意見はどうだろうか?」


 ギルドマスターの発言に対し、重鎮たちが一様に厳めしい顔で首を横に振ってみせる。


「私としては反対ですな。確かに彼らは大いに貢献したとは思いますが、変異種のゴーレムを倒すどころか、進化させた上で逃げられてしまっているわけでしょう。よって、いささか時期尚早ではないですかな?」


「それがしも同意見であります」


「吾輩も。彼らの昇格は当面見送るべきかと……」


「そういえば、『聖域の守護者』パーティーのメンバーの中に化け物級のラウルとやらがいたそうだが、期待外れもいいところではないか。SS級となるにはまだまだ実力不足であり、不適格というものだろう」


「……ふむぅ。では、今回の昇格は見送りに――」


「――ギルドマスター、お待ちくださいっ!」


 そのタイミングで手を上げつつ立ち上がったのは、受付嬢の一人であるイリスだった。


「イリスよ、またしても何か意見があるのか?」


「はい。私は現地にいて、『聖域の守護者』パーティーの活躍振りをこの目で確認しました。ラウル様はその中でも、獅子奮迅の働きで変異種ゴーレムを追い詰めたんです」


「ほう。それならば何故失敗したのか、もっと詳しく話してくれ」


「わかりました。ラウル様は変異種ゴーレムを倒す寸前までいったのですが、錬金使いのハンスが卑劣にも、その矛先を失神中のクレス様や私がいるほうに逸らしたんです。そこでラウル様は私たちの命を守ろうとして攻撃をストップし、その結果無念にも取り逃してしまったというわけです……」


「ふむう、なるほどな……」


「私は職を辞する覚悟で、ここで昇格を渋っている方々に申し上げます。命が惜しいあまりに真っ先に逃げたあなた方に、ラウル様を否定できる権利は何一つありません!」


「「「「「……」」」」」


 魂を揺さぶるかのようなイリスの激しい言葉によって、重鎮たちがいずれも気まずそうに黙り込む中、もう一人の受付嬢であるイザベラが手を上げつつ立ち上がる。


「私めも、イリスさんに同意いたします。それに、私めがここから遅れて避難しているときでさえも、彼女は一般の方や冒険者を案内するためにと最後までギルドに残っていたので、本当のことを話しているのは明らかでございます」


 イリスの熱弁に加え、同僚のイザベラが助け舟を出したことで、その場の空気は明らかに違う方向へと傾き始めるのだった。


「……ふむ。イリスとイザベラの話を聞くと、とっくに現役を退いている我々の身としては、ラウルの勇気と決断力には頭が上がらんな。確かに失敗はしたものの、結果的には町を救ったのだ。よって、ただいまをもって『聖域の守護者』パーティーをS級からSS級へ昇格とする!」


「「「「「ザワッ……」」」」」


 俄かにどよめく場内だったが、不服そうな顔でブツブツと愚痴を言う者はいても、はっきりと異論を唱える者は誰一人現れなかった。


「あ、ありがとうございます、ギルドマスター様、それにイザベラさん……」


「イリスさん、前回の借りについては、少しは返せましたでしょうかね……」


「充分です! ふふっ……」


 目配せしつつ笑い合うイリスとイザベラ。


「コホンッ。二人とも、私語は慎むように。まだ議題が残っているのでな……。今回昇格した『聖域の守護者』だけでなく、A級パーティー『暗黒の戦士』もまた、今回町を救うのに奮闘し、貢献していたという情報が入っている。そこで、彼らをS級パーティーへと昇格させ、さらに注意マークも外そうと思うのだが、これについてはどうだろうか?」


「「「「「……」」」」」


「ふむ。誰も異論はないようだな。では、これより決定とする。それと、最後に今回の件で貢献しなかったパーティーについては、例外なく罰金として銀貨3枚、さらに一つ分の降格処分にしようと思うが、どうか?」


「「「「「賛成!」」」」」


 これには、誰もが拍手を添えて満場一致で決定するのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る