第54話
「な、なんだと……? 僕たちがA級に降格だと……?」
「そ、そんな。嘘でしょう……?」
「……なんで、なのよ……」
あれから半日ほど経った冒険者ギルドにて、一組のパーティー『神々の申し子』のバルドらが放心した様子で受付嬢のイザベラを見つめていた。
「残念ながら、あなた方は今回の変異種ゴーレムとの戦いにおいて一切貢献しておりませんので、極めて妥当な判断かと思われますが……?」
「い、いや、ちょっと待て、イザベラ、ふざけるな! それは断じて違うぞ!」
「はあ。違うと申しますと……?」
「いいか、よく聞くがいい。まず、僕たちのこの悲惨すぎる格好を見たまえ! これほどまでにズタボロになりながらも、命懸けで変異種モンスターから町を守ってみせたのだぞ……!?」
「そうですよ、こんなのおかしいです! 確かに依頼に関しては失敗続きでしたし、見苦しい言い訳もしました。けど、だからこそ名誉を挽回しようと私たちは必死に頑張ったのです。それをあなた如きがどうして疑えるというのですか!?」
「……そうよ。あたしたち、大事な仮面が外れるくらい、こんなに頑張ったっていうのに……。イザベラ、あんたってもしかして、人間性ゼロなの……?」
「……わかりました。そこまで言うのであれば、もっと調べさせていただきます……」
しばらく、バルドたちの様子をじっくりと観察するイザベラ。
「――確かにボロボロではございますが、妙でございますね。ゴーレムと戦ったにしては、破れたような、鋭いもので引き裂かれたような痕跡が気になります。それと、やたらと鳥臭いというか……」
「「「「「ぷぷっ……」」」」」
イザベラの鋭い指摘で、その様子を見守っていた野次馬たちから失笑が漏れる。
「そ、それはイザベラ、貴様のただの思い込みによる感想だろうが! 僕たちはゴーレムに引き摺られながらも奮闘したのだっ! それは歴然たる事実なのだから、意地を張らずにいい加減認めたまえよ!」
「そうですよ。山奥から帰還してきたのですから鳥の匂いくらいするでしょうに。命懸けで戦った私たちに対して、イザベラ、あなたの言い分はあまりにも酷すぎますっ!」
「……イザベラ。あんたってホント、最低よね……」
「……はあ……。では、そのことをあなた方以外に証明できる方は……?」
「いや……そんなものはいないが、粉塵が舞っていて視界が悪かったのだから仕方ないだろう! とにかく、貴様の言っていることは不当だし一切認められない! 僕たちは冒険者ギルドやこの町のために命懸けで戦ったのだから、最低でも現状維持のS級、もしくはSS級への昇格が妥当だっ……!」
「「「「「……」」」」」
バルドたちの執念は凄まじく、彼らを除いてその場にいる者たちは呆れ顔で首を左右に振る等、いたく辟易とした様子を見せ始めていた。
「うえっぷ……あ、やっと着いたんだね、あんたら~」
「「「えっ……?」」」
そのときだった。なんとも軽い調子で声をかけてきた一人の男がこの流れを変えることになる。
「……なんだよ、もう忘れちゃった~? へへっ、おいらだよ、治癒使いのウッドさ~……! ういー……」
「あ、あなたは、何故お一人で来られたのでしょう? 確か、この『神々の申し子』パーティーに所属していたはずでは……?」
「それがさ~、イザベラさん、聞いてよ、酷いんだよ~。この人たちに、山奥で追放されちゃって、だからおいら一人ぼっち――」
「――ウ、ウッド、貴様あぁっ!」
ウッドが言い終わるのを待たず、血相を変えて胸ぐらを掴むバルド。
「貴様のせいでなあっ、僕たちはとんでもなく痛い目に遭ったのだぞっ!?」
「そうですよ、ウッド! 雑魚のあなたが私たちの近くにいたせいで、カラスの大群に襲われる羽目になったのですから!」
「……ウッドォ……あんたのせいで、カラスたちから逃げる間、あたしの大事な仮面を取られちゃった――」
「――コホンッ……!」
ウッドが物凄い勢いでバルドたちに詰め寄られる中、イザベラが強めの咳払いをして周りの耳目を集める。
「皆さん、今の見苦しいやり取りをお聞きになりましたか? 彼らのこの発言こそが、一切の貢献をしなかったことの確かな証拠でございます。大型カラスの群れから逃げ回るのに精一杯の冒険者たちが、サポート役まで追放した上で果たして変異種ゴーレムと戦えるでしょうか? よって、A級への降格決定は微塵も揺るぎません!」
「「「「「ワーッ!」」」」」
イザベラの勇ましい発言により、拍手と歓声の坩堝と化す冒険者ギルド。
「ダ、ダメだっ! そんなの認められない!」
「そうですよっ!」
「……絶対に――!」
「――いい加減、情けないと思わないのですかね……!? あなた方が追放したラウルさんは、今やSS級に昇格となった『聖域の守護者』パーティーの主力だそうでございますよ!?」
「「「えっ……?」」」
イザベラから思わぬ事情を耳にし、それがとどめとなったのか顔面蒼白になってへたり込むバルドたち。彼らはしばらく、カウンターの前で石像のように固まったままであった……。
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