第75話
「ラウルよ……。私が誰なのか、本当にわからないのか?」
「……うーん……」
ダメだ、やっぱりどう考えても、彼女が誰なのかわかりそうでわからない。そんなもどかしい感じが続いてる。
「「「「じー――」」」」
「――はっ……!?」
気が付くと、ルエスたちが後ろから興味深そうに覗き込んでいるのがわかった。
「さすが、ラウル君。こんな美女の知り合いまでいるなんてね……」
「ラウルさん……モテモテですねぇ。妬いちゃいます……」
「ホントよねえ。しかも、あたしたちが見てるからってこんな美人に対して知らない振りしちゃって。ラウルって草食系に見えて、やっぱり男なのねえ」
「ねえねえ~、この人ってえ、パパの新しいママなの~?」
「い、いやいや、待ってくれ、ルエス、ユリム、カレン、ファム。本当に誰かわからないんだって!」
「むうう、酷いぞ、ラウルよ……。かつては、あんなに激しく燃え上がった仲だというのに……」
「ちょっ……!?」
とんでもない発言が黒尽くめの美女の口から飛び出し、みんなの視線も段々と尖り始めたもんだから思い出すどころじゃなくなってきた。
「フハハッ……。モンスター級の癖に珍しく慌てているな。だが、いい気味だ。名前までつけてくれたというのに、無慈悲にも忘れてしまうとは……」
「あっ……」
俺はようやくそこでピンときた。自分が名前をつけたのは、ファムとあの個体しかいない。
「まさか……ジャイアントレイブンの変異種のイブなのか?」
「ウム、まさしくその通りだ。この姿、驚いたか?」
「そ、そりゃなあ……。見た目があまりにも変わりすぎてるんだから驚かないほうが無理がある……。って、なんでまた、人間の姿に?」
「それが、知り合いの老婆から、妙な薬を貰ってな。人間に戻る薬だとか。もういらないからやるよと言われ、試しに飲んでみたらこうなった……」
「試しに飲んでみたらって……もう元の姿に戻れないんじゃ?」
「いや、そんなことはない。ほれ、見てみよっ……!」
「なっ……!?」
黒い羽が幾つも周囲に舞ったかと思うと、イブの姿がまたたく間に大型カラスのものへと変貌していく。広い玄関内にギリギリで収まるくらいの大きさだ。
「わあーっ、おっきなカラスさんだぁーっ! きゃっきゃ!」
ファムがイブの変わり様を見るなり、飛び跳ねてはしゃいでいる。普通は怖がりそうなもんだが、そこはやはりまだ小さいとはいえ進化ゴーレムなだけある。
「ほれ、こんな具合だ」
イブはそこからまた人間の姿に変身してみせた。
「あれ……。薬も飲んでないのに、一体どうやったんだ?」
「私もよくわからないが、一度薬を飲んだことで変身の仕方というものを覚えたらしい」
「なるほどな。さすがは人間並みに賢いジャイアントレイブンの変異種……って、イブがここに来たのは俺たちにその姿を見せるため?」
「ラウルよ。友人と会うのに大した用事が必要なのか?」
「い、いや、そんなことはないけど……」
「フフッ。人間の姿もいいものだな。反応が全然違う」
「おいおい、イブは意地悪だな……」
「無自覚モンスターに比べたら可愛いくらいだ。そういえば、ギルドにも寄ってみたんだが、イリスという受付嬢が怒っていたぞ? 最近ラウルが来ないからと」
「あ……」
そういえばそうだった。最近はファムにせがまれたのもあるが、つきっきりで世話をしていたもんだから冒険者ギルドへ行く機会がなかったんだよなあ。
あと、イリスはサービス精神が強すぎるのか、ボディタッチがやたらと多いから俺としては勘違いしそうで困るっていうのもあるんだ。
それもあって、俺も男だから妙な気になってしまわないようにと距離を置いてみたのもあるんだが、どうやら不満だったらしい。
あれじゃまるで恋人同士みたいだが、イリスはああいうのがいいんだろうか。それなら今度は俺も積極的に行ってみるかな……。
「よーし、それじゃみんなで散歩がてら、ギルドへおでかけしようか?」
「「「「「おーっ!」」」」」
イブを含めて、歓迎するような弾んだ声が返ってくるのだった。
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