第78話
「――う……?」
いきなり来訪してきた強めの風に頬を撫でられ、その場に横たわっていた一人の少女が薄らと目を開ける。
「ここ、は……?」
彼女がおもむろに上体を起こし、表情の乏しい顔を左右に振って周囲を見渡すと、そこはどこまでも延々と続くかのような花畑であった。
「……綺麗……」
少女が一輪の花を指先でそっと撫でるも、またたく間に枯れてしまう。
「どうし、て……?」
見開いた両目でよく見てみると、彼女がいる場所に咲いていた花は徐々に枯れていった。
(これが、自分の使命……? あらゆる命を、絶やすことが……)
少女は片方の瞳から一滴の涙を落としたが、それを気にする気配もなく立ち上がった。
(そろそろ、行かなきゃ……)
しおれた花の道がしばらく続いたのち、ゆっくりと歩いていた彼女の姿もいつしか風とともにどこかへ消えてなくなるのだった。
◆◆◆
『…………』
俺たち『聖域の守護者』パーティーが大型カラスの変異種であるイブの背中に乗り、ゾンビが大量発生したという隣町へ向かっている最中のことだった。
「ん、どうかしたのか、イブ?」
なんらかの異変を感じ取ったのか、普通であれば聞き取れないような上擦った小さな声を彼女が発するとともに、心身の状態に微細な混乱を引き起こし、頭部の毛を僅かに逆立てたのがわかったんだ。
そこは、俺自身どんな異変も見逃すまいと、落下を防ぐための『平衡魔法』に加え、聴覚、嗅覚、視覚を活性化させた『盗聴魔法』『感知魔法』『探知魔法』を同時に併用していたことが大きい。
ただ、これらの魔法はあらゆる方面に完璧に作用するというわけではなく、遥か遠方にある異質なものを感知するなら、人間よりも変異種のイブのほうがより敏感に感じ取れるはずだ。
『いや、ラウル。確かに何か胸騒ぎのようなものはしたが、すぐに収まった。気にしなくていい』
「まさか、変異種の匂いがした?」
『……おそらく、違う。何か、もっと別のものだったような。ただ、今はもう何も感じない』
「そうか……。それならいいんだが」
「……ラ、ラウ、ル君、な、な、何か、たたっ、大変そうだ、ね……」
「大変そうなのって……やっぱりルエスのほうだと思うです……」
「ホント、ルエスったら、結構頼りになるリーダーって思った突端これなんだから……」
ルエスは相変わらず高いところが苦手なのか、出発してからずっとブルブル震えてるもんだからユリムとカレンに笑われてるが、これでもすぐ気絶していた頃よりはずっとマシになったほうだ。
イブが感じ取った異変のようなものについては若干気になるとはいえ、今はそれよりも隣町をなんとかするべく急がないといけない。
「むにゃ……パパ……もう着いたのぉ?」
俺の膝の上で眠っていたファムがお目覚めの様子。彼女も俺たちについていきたいというので同行させてて、周囲の景色を見下ろして無邪気に楽しんでると思ったら、途中で飽きたのか寝てしまったんだ。
「まだだよ、ファム。というか、涙が出ちゃってるけど怖い夢でも見た?」
「……んーとぉ、なんかね、ファム、懐かしい夢を見たような気がするの。忘れちゃったけど……」
「懐かしいって……ファムはまだ子供だろ?」
「うー、そうだけどお……」
俺の台詞で笑い声が上がる中、頬を膨らませたファムの涙を手で拭ってやる。
「「「「「――あっ……」」」」」
それからほどなくして、前方のほうに建物群が見えてきた。おそらくあれが隣町だ。イブのおかげで、ここまであっという間だったな。
とはいえ、町へ着いて早々に熾烈な戦いが始まるわけで、喜ぶのはこれくらいにして気を引き締めていかないと。
ファムの姉でもある進化ゴーレムもいずれは目覚めるだろうし、俺たちの本当の戦いはこれから始まるといっても過言ではないのだから……。
________________________________
※後書
ここまでこの作品を評価してくださった方々へ。本当にありがとうございます。今から第三部が始まるというところですが、これにて連載は一旦終了となります。
ほんの僅かでもこの作品が面白かった、あるいはお話の続きを読んでみたいと思った方は★★★を押して頂けるとありがたいです。反響次第ではありますが再開する可能性はあるかもしれません。
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって? 名無し @nanasi774
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