第57話


「ルエス、ユリム、カレン……そこまで驚くことかな?」


「「「……そ、そそそっ、そりゃ……」」」


 ルエスたちが揃ってこれでもかと肩を竦ませる中、王様が苦笑しつつ俺の肩をポンポンと叩いてきた。


「まったく、ラウルも人が悪い。お主が特別に肝が据わってる上にその自覚がない変わり者なだけで、普通の者は余に対して皆こういう反応をするのが当たり前だぞ?」


「そ、そうなんですか……」


 正直、俺はどうしてみんながあそこまで硬くなるのかがよくわからない。この王様が、とても気さくで喋りやすい人だっていうのはわかるんだけどな……。もしかして俺のほうがズレてるんだろうか?


「とにかく、今夜の祝賀会はお主たちが主役だ。余は用事があるゆえ少しの間席を外すが、またすぐにここへ参るとする。ラウルよ、面白い話を期待しておるぞ!」


「はい、王様」


 王様が上機嫌の様子で立ち去ったのち、ルエスたちの安堵の溜め息が聞こえてきた。


「……し、心臓が止まるかと思ったぁ……」


「……わ、私もなのです……」


「……あ、あ、あたしも……」


「ははっ。みんな大袈裟だな――あっ……!」


 言ったそばからを感じて、俺自身もオーバーな反応を見せてしまった。


「ラ、ラウル君、どうしたんだい……?」


「ラ、ラウルさん?」


「ラ、ラウル?」


「……ゴ、ゴーレムの卵が暴れてる。もうすぐ孵化しそうだ」


「「「えぇっ……!?」」」


 さすがに、こういう人目につく場所でモンスターの卵を孵すのは気が引けることもあり、ルエスたちに俺の周りを囲んでもらって慎重に卵を外に出すことに。


 殻には既に大きな亀裂が幾つか入っていて、今にも孵りそうになっていた。もうすぐ生まれるのは間違いない。


「「「「……」」」」


 お、まもなく罅割れから小さな手と足が出てきた。思わず声に出して応援したくなるし、手伝いたくもなるが我慢だ。ルエスたちもそう思ってるのか無言でじっと見守っていた。やっぱりここは自分の力だけで出てこないとな。


「――ふわうっ……」


「「「「おおぉっ…!」」」」


 遂に卵が孵った。手の平サイズのゴーレム幼女だ。といっても完全な人型なのでゴーレムの面影はないが、進化したあの変異種ゴーレムに瓜二つで、妹というだけあると感じた。


「……ぱ……ぱぱぁ、だいしゅきっ……」


「うあっ?」


 俺はゴーレム幼女から頬ずりされてしまった。可愛いがなんとも照れ臭い。それにしても、いきなり言葉を喋れるんだな。卵の中にいる間に俺たちの会話が聞こえていて、それで覚えたんだろうか。だとしたら物凄い学習能力だし、失踪した姉同様に知能も進化しているのが窺える。


「んぅ……はどこぉ……?」


「…………」


 そうか、パパはいてもママがいないんだったな。これは盲点だった。


「ぼ、僕でよければ……!」


「わ、私でよければ……」


「あ、あたしがママよっ!」


「は、ははっ……」


 俺はほんの少しだけ、ルエスがママになってるところを想像してしまった。なんせ料理が得意でエプロン姿もよく似合うだけに。


「ままはどれなにょ? みんなままなにょ?」


 ゴーレム幼女が不思議そうにルエスたちを見ている。そうだな、もうみんなママってことにしとこうか。


「そうそう。みんなママなんだよ」


「そうなにょぉ。それにゃ、わたひもままになりゅっ」


「「「「……」」」」


 俺たちはなんとも苦い笑みを向け合う。さすがにその発想はなかった。


「……むにゃ……くぅ、くぅ……」


 あ、ゴーレム幼女が手の平で横たわったかと思うと、そのまま寝てしまった。


「まだ生まれたてだから疲れたんだな……。そうだ。みんな、折角だからこの子に名前をつけてくれないか?」


「おぉ、ラウル君、それいいね。んー……ゴーレムだから単純にレムでどうかな?」


「そうですね~……。ルエスのも可愛いですけど、小さいのでリトルゴーレムから取って、リムでどうです?」


「レムもリムもいいけど、あたしはファムでっ!」


「「「ファム……?」」」


 一体、カレンはどこから取ったというのか。


「えへへ、気になる~? ファミリーから取って、ファムね! だって、あたしたちがずっと楽しみにしてた子供でしょ? それって本当の家族みたいなものだから!」


「「「なるほど……」」」


 しばし考えたのち、俺は腹を決めることにした。


「そうだな……ルエスとユリムの考えた名前もいいけど、カレンの案を取ってこの子の名前はファムにするよ」


「「「おーっ!」」」


 そういうわけで、このゴーレム幼女の名前は正式にファムとなり、同時に俺たち『聖域の守護者』パーティーの一員となった。


 パーティーメンバーは四人までという人数制限はあるが、テイマーや錬金使いが従えるモンスターがその一人としては数えられないように、彼女がいても大丈夫ないはず。


 ただ、そういったジョブがうちにはいないので、なるべくこの子を表には出さないようにしたほうがいいだろう。ただでさえ、あの進化ゴーレムの妹なわけだからな――


「――おーい、ラウル!」


「「「「はっ……!?」」」」


 王様が戻ってきて、俺は咄嗟にファムを隠した。危なかった……。


「ん、どうしたのだ、そんなに慌ておって。さあ、早く余に面白い話を聞かせよ、ラウ――」


「「「「「――何者だっ!?」」」」」


 なんだ? 怒号とともにやたらと物々しい空気になったと思ったら、大勢の兵士たちに囲まれつつ、こっちのほうへ強引に向かってくる者たちの姿があった……って、あ、あいつらは……。

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