第56話


「……こ、この格好、どうかな……?」


 これから城へ出発するってことで、俺はいつもの地味なローブからまさに正装といった感じの礼服に着替え、ルエスたちに披露したところだった。


「「「……」」」


 みんな珍獣でも見るような目つきでまじまじと見てきて、その視線がなんとも痛い。やはり、凡庸な治癒使いの俺にこんな立派な服は相応しくないよな――


「――いや~、ラウル君、実に格好いいね! 男の僕でも見惚れてしまったほどだよ……!」


「本当ですね……。ラウルさん、とっても素敵です……」


「ラウル、すっごく似合ってるじゃない! 正直、別人かもって思ったくらいだわ!」


「そ、そっか。それならいいんだけど……」


 ルエスたちの配慮ある台詞に対し、俺は頭が下がる思いだった。


 本当はあんまり似合ってないんだろうし普段着のほうがいいんだが、折角みんなでお城へ行くわけだからこういう格好もたまにはいいと思ったんだ。


「…………」


 ん……今、俺の懐の中でゴーレムの卵が動いたような。こりゃ、いよいよ近いうちに孵化しそうだな。ただ、この分だと生まれるのがタイミング的に祝賀会の真っ最中になりそうで不安もあるが――


「「「――じーっ……」」」


「はっ……。ど、どうしたんだ? ルエス、ユリム、カレン、そんなに間近で見つめてきて……」


「ラウル君、また難しい顔しちゃって、何か考え事かい? そんな顔してたら折角の晴れ姿が霞んじゃうよ!」


「そうですよ~……。さあ、ラウルさん、行きますよ……?」 


「さー、ラウル、いざ出発するわよ!」


「ちょっ……!?」


 俺は両腕をユリムとカレンにがっしりと組まれ、さらに背中をルエスに押される格好で足早に宿舎を発つことになってしまった……。




「「「――おおおぉっ……!」」」


 それから自分たちは遂に王城までやってきた。ルエスたちはそのあまりにも壮大かつ華やかな光景に視線を奪われ、しばし我を忘れてしまっている様子。


 今までとはまさに別世界だからその気持ちはよくわかる。個人的には、ここへ来るのは前回災害級モンスターを倒して招待されたとき以来で、これが二回目ということもあって落ち着いてはいる。


 ただ、嬉しさの度合いに関しては前回とは全然違う。正直、城の中はどこを見ても眩しいほど豪華な装飾が施されてるので苦手だが、今日に限ってはまったく気にならないくらい気分がよかった。


 本当の意味で俺を認めてくれた仲間たち――ルエス、ユリム、カレンとともにSS級に昇格し、ここまで来ることができたわけだからな……。


「「「「ラウルッ!」」」」


「あ……」


 名前を呼ばれたと思って振り返ったら、『暗黒の戦士』パーティーのダリアたちがこっちへ駆け寄ってくるところだった。そういや、彼らも大いに貢献してS級まで昇格したことで呼ばれてたんだったな。


 それにしても、みんな一瞬誰なのかわからないほど着飾っていたが、その独特の雰囲気ですぐに彼らだとわかった。


「ダリア、セイン、リシャール、オズ、S級昇格おめでとう」


「「「おめでとー!」」」


「お、おいおーい! SS級パーティー『聖域の守護者』から褒められるとか! しかも、憧れのラウルから直々に……。こんなん、S級になったことより断然嬉しいぜっ!」


「ダリア姉さん、マジ、そうっすよねえ。ラウルさんを見るだけで泣けてきやす! 問題児扱いで散々馬鹿にされてきたあっしらが、遂にここまで来たのかって思うと……」


「……そうだね、セイン。ラウルのおかげだけど、まさか自分らがここまで来るなんて今でも信じられない……」


「……め、目から謎の液体が出そうじゃわい……っていうかダリアよ、お前はラウル先生と結婚するべきじゃっ!」


「あ、オズ、それ最高っすねえ。ダリア姉さんを攻略できる人外の条件にピッタリ合致――」


「――こいつら! 照れることを言うなっ!」


「「イダァッ……!?」」


「……というか、そんなの決めるな、勝手に……」


「「ひいぃっ……!?」」


 頭を抱えるセインとオズが、顔を真っ赤にしたダリアとリシャールを前に戦々恐々な様子。相変わらず彼女たちもお世辞が上手だなあ……って、ルエスたちがあんまり喋らないと思ったら、まだ緊張が解れないらしく青い顔でキョロキョロしていた。


 そういうのが軽減する支援魔法をかけてもいいが、一度バフに慣れてしまうと耐性がつきにくくなる恐れもあるからな。


「――やあ、そこにいるのはラウルじゃないか」


「あ、どうも」


 なんとも気さくな感じで声をかけてきたのは、これまた俺のよく知っている人物だった。


「ラ、ラウル君はさすが、知り合いが多いね。この人は誰なんだい……?」


「ど、どこかの貴族さんですか……?」


「ラ、ラウルの知り合いだし、高名な冒険者とか?」


「ああ。彼はこの国の王様だよ」


「「「えええぇーっ!?」」」


 誰もがこちらに振り向くほどの、ルエスたちの大声が響き渡った。

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