第73話
「お、おい、お前ら、見てみろよ、あれ……」
「なんだなんだ?」
「え? 何かあったのか?」
町の入り口付近にて、人々から挙って注目されるのは兵士たちであり、その中でも特に最後尾のほうに好奇の視線が集まっていた。
「……あれじゃね? どうせ、強盗かなんかやってしょっぴかれたんだろ」
「あー、みんないかにも凶悪そうな面してるし、どうやらそれっぽいな」
「てか、どいつもこいつも随分こっ酷くやられてんなあ。惨めすぎるぜ……」
たちまち興味を失った様子で目を逸らされるのは、兵隊に連れられてとぼとぼと歩く三人の男女だった。
いずれも、乞食のようなボサボサの髪と泥まみれの服装で顔面は大きく腫れ上がり、人目に晒すように町中を堂々と連行されても、彼らがかつてSS級まで上り詰めた『神々の申し子』パーティーのバルドたちだと気付く者は誰一人いなかった。
今、巷で話題の『聖域の守護者』パーティーと、死闘を繰り広げた直後の出来事であるにもかかわらず。
「ぐ、ぐふっ……はっ、離せえぇっ……! くぉっ、これはだなぁぁっ……あ、明らかに、卑劣極まる『聖域の守護者』による陰謀なのだああぁぁっ……!」
「……そっ、そうなのですうぅっ……! バルドの言う通りですからぁ、話だけでも聞いてくださいなぁぁっ……!」
「……その通り……。あんたたち……バカだから、あのパーティーに、騙されてる……。早く目を覚まして――」
「「「「「――いいからさっさと入れ、極悪人どもっ!」」」」」
「「「そ、そんなあぁぁっ……」」」
駐屯地内の牢獄前にて、最後の最後まで抵抗してみせるも、兵士らの手によって檻の中へ叩き込まれるバルド、シェリー、エミルの三人。
「「「……」」」
彼らは一様に絶望にまみれた暗い眼差しで、鉄格子越しに遠ざかる兵隊を見つめることしかできなかった。
その場には三人以外に誰もいなくなり、やがてバルドたちは冷たい壁を背に深々と項垂れ、独り言のようにブツブツと呟くのみとなった。
「――こ、こんなはずではなかった……。これは悪い夢なのか……? 僕たちはちょっと前まで、誰もが羨むSS級パーティーだったのだぞ……。なのに、A級まで転落して解散まで追い込まれた挙句、豚箱行きだと……? 何故だ……。どうしてこうなった……?」
「……な、なんなのでしょう。あんなに上手くいっていたというのに……。私たちは呪われてるとしか思えないです。こんな……こんな理不尽なことって、ありえませんよ……!」
「……ううぅっ……。顔ぉ……顔が疼くよおぉ……。何もかもが楽しかったあの頃に……帰りたい……」
ここまで来ても現実を受け入れることができないのか、信じられないといった様子で頭を抱え込む三人。
「…………」
この上なくどんよりとした空気が漂う中、しばらく時間を置いたのち、シェリーが何かを悟ったような達観した面持ちになる。
「もう、現実逃避はやめにしましょう……。不運にもほどがあるとはいえ、運も実力のうちだといいますし、こうなったら現実を受け入れるしかないですよね」
そんな彼女の台詞に反応したのは、目元に涙を溜めたエミルだった。
「……シェリー、あたしも、そう思う……。この現実を認めるのは、死ぬほど悔しいけど……。ここから釈放されたら、別の町で再出発するしか……」
「えぇ、是非そうしましょう、エミル。私たち二人で一からやり直すんです。バルド、あなたはリーダーですし、パーティー解散ということで、残念ながらお別れになりますけれど……」
「うん……。お別れだね……バルド――」
「――呪ってやる……」
「「っ……!?」」
ぼんやりとした黒い影に包まれたバルドの顔を見るなり、震え上がるシェリーとエミル。それは誰が見ても、最早人間のものとは思えないおぞましい表情だった。
「あらゆるものを恨み、呪い尽くしてやるのだ……。必ずや、僕を見放したこの世に復讐してみせる。ククッ……ハハハッ……! アヒヒッ……! アヒャヒャヒャヒャアアァッ……!」
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