第71話


「俺は……かつて弓使いじゃなく、そこら辺にいくらでも転がってるような、平凡な支援使いだった……」


 なんとも衝撃的な発言が、妨害してきた男の口から飛び出した。


「ラウル……あんたが当時『神々の申し子』パーティーに所属し、サポート役として我が世の春を謳歌しているとき、俺は絶望の底にいたんだ……」


 元支援使いだと明かした男は、濡れた地面を恨めしそうにじっと見据えながら言葉を続けた。


「その頃、俺は底辺のD級パーティーに所属していたが、リーダーや仲間たちからあんたと比較されない日なんてなかった。『あのラウルと比べると、お前はなんて無能なサポート役なんだ』だの、『ラウルの爪の垢を少しくらい飲んだらどうだ、ゴミサポーターが』だのなんだの、心無い罵声を浴びせ続けられる地獄のような毎日だった……」


「…………」


「いつしか仲間だけでなく、あんたのことも憎むようになった俺は、支援使いの道を諦めて弓使いに転身し、黒い世界にのめり込むようになっていた。いわゆる、殺し屋ってやつだ」


「……それでバルドに依頼されたのか」


 俺の言葉に対し、男は少し間を置いたのちうなずいた。


「そうだ……。俺は上手くいってる冒険者やあんたのことが憎かったし、大金も欲しかった。そこでバルドたちと利害が一致し、協力し合うことになったんだ」


「なるほどな……」


 男の自白に対し、バルド、シェリー、エミルから立て続けに『ふざけるな!』『出鱈目です』『それは絶対違う……』という声が飛んできたが、誰も彼らの言葉に耳を傾ける様子すらなかった。今となってはそれも当然だろう。


「ただ……俺はルエスをやったあと、ラウル、あんたのことも殺すつもりだった。これに関しては自分の意思で行い、そのあと自害するつもりで水筒に毒も入れた。さあ、もういいだろう。全部残さず打ち明けたから、一思いにさっさと殺してくれ……」


「なあ、お前の名前はなんていうんだ?」


 俺の投げかけた言葉に対し、男はよっぽど意外だったのか目を丸くした。


「……はあ? お、俺の名前だって……? あんた、そんなどうでもいいことを知ってなんになるっていうんだ。俺なんて、どうせすぐにでも処刑されて虫ケラのように消えてなくなる身だってのに」


「いいから教えてくれ」


「……あんた、本当に変わってるな……。俺はキーフっていうんだ」


「キーフか。お前まだやり直せる」


「はあ……? この世じゃもう無理だし、転生してやり直せってか?」


「いや、そういう意味じゃない。お前は俺の暗殺を企てていたとはいえ、まだ誰も殺してないだろう。その腕ならルエスの頭部を狙うこともできたはずなのに」


「…………」


「俺が思うに、あの状況で膝を狙うのは至難の業だ。役立たず扱いされた支援使いから、それほどの腕前になれたのは何故だと思う?」


「そ、それは……」


「お前が答えられないなら俺が答えてやる。それはな、があったからだ」


「劣等感……?」


「そうだ。俺自身もそうだった。何度お世辞を言われようと、自分は治癒使いとして力不足だと感じていて、常に上を目指そうと思ってやってきた。今でもそうだ」


「あ、あんたほどの人でも劣等感なんてあるのか……」


「おいおい、お前までお世辞を言うのか? とにかく、これからはそのエネルギーを技術に注ぎ込め。それがお前に残された唯一の道だ」


「ちょ、ちょっと待つのだ、ラウルよ」


 慌てた様子でその台詞を投げかけてきたのは王様だった。


「もしや、こんな非道な男を許すというのか? バルドたちに依頼されたとはいえ、お主ら国の宝であるSS級パーティーを害しようとした罪はあまりにも重いぞ」


「王様。それはわかりますが、俺はあくまでも治癒使いです。許すとかじゃなく、人を助けるのが仕事です。正直、ここまでされて怒り心頭だし、罰は与えるべきだとして、それ以上に命だけは助けてやりたいんです。この男が悔い改める可能性に賭けたい。どんなにお人よしといわれようと……」


「…………」


 俺の言葉が心に沁みたのかどうかはわからないが、元支援使いの男の目元には光るものがあった。

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