第31話
ん、あれは……?
俺たち『聖域の守護者』パーティーが、急ぎ足で山道を進んで町へと戻る途中のことだった。
罠がある可能性も考慮し、一応『探知魔法』を使ってみたところ、500メートルほど先から一羽の伝書鳩が近付いてきているのがわかったんだ。
おそらく、こっちの方向に飛行してるってことは、例の山奥の村のほうへと向かっている可能性が高い。
一体何を知らせようとするものか気になるが、だからといってわざわざあの鳩を手元に呼び寄せる必要はない。
というわけで、俺は視覚と直感力を活性化させた『透視魔法』を使用し、伝書鳩の足に括りつけられた手紙の中身を確認する。
「…………」
何々……『冒険者ギルドから、急ぎの知らせを伝えるものとする。新たに現れた変異種モンスターによって町が危険にさらされている。よって遠征している冒険者たちは今すぐ帰還せよ』だと……。
おいおい……思っていた以上に衝撃的な内容だった。それじゃあ、やっぱりあの変異種カラスが言っていたことは正しかったのか。
しかも、一カ月ほど前に発生して災害級まで進化した変異種と合わせれば、これで一年で三体目の変異種モンスターが誕生したってことになる。
これはさすがにただの偶然だとは思えない。何より、あの変異種カラスがその事実を知っていたのが、これが人為的であるということの何よりの証明じゃないか?
「――はっ……」
まもなく俺はとんでもない事実に気が付いた。となると、最初から俺たちを山奥の村まで誘き寄せて町を狙う作戦だったのか。一体どこの誰がこんな妙案を考え出したっていうんだ……?
「ラウル君、さっきから様子がおかしいけど、どうしたんだい……?」
「ラウルさん……何かあったです……?」
「ラウル、どうしたの……?」
俺のスピードが明らかに下がってきた影響か、後ろを走るルエスたちが怪訝そうに訊ねてきた。そうだ、彼らにもこのことを伝えなければ。
「ルエス、ユリム、カレン、大変なことが起きてしまった。今、こちらに向かっている伝書鳩の内容を『透視魔法』で読み取ったんだが、町が今変異種モンスターに襲われている……」
「「「えぇっ……!?」」」
こうなったら今以上に急ぐ必要があるものの、その方法が浮かんでこない。
今使っている『筋肉強化魔法』に加え、『覚醒魔法』を全員に使用することも考えたが、『自動体力回復魔法』でも疲労が蓄積してしまうし、そのあとすぐ戦わなければならないのを考えたら本末転倒だ。
一体どうすれば……って、そうだ。あの手があった。かなり強引な手段だと思えるが、今のままだと手遅れになってしまうのは明白だし、試してみる価値は充分ありそうだ。
◆◆◆
『『『『『ウゴオオオオオォォォォッ……!』』』』』
「き、来たっ! やつらが来たぞっ。逃げろおおぉぉっ!」
「嫌あああああぁぁっ!」
「助けてええええぇぇっ!」
ラウルたちが住む町にて、周囲がほぼ見通せないほどの粉塵が巻き起こる中、人々はモンスターの襲来に恐れをなして我先にと逃げ惑っていた。
「おい、お前ら何をやっている!? みんなを守るぞ!」
そんな破滅的な状況下、迫りくるモンスター群を退治しようとする強者たちもいたが、誰一人押し返すことができずに苦戦を強いられていた。
「ダ、ダメだ、こいつら、何回攻撃しても倒れないぞ!?」
「畜生……このゴーレム、いくらなんでもタフすぎる……!」
「それだけじゃない! 巨体の癖に動きもやたらと俊敏だ!」
「これが変異種モンスターなのか……って、まずい。このままじゃ潰されちまうぞ!」
「「「「うわあああぁぁっ!」」」」」
(フフッ……君たち程度の力じゃ、いくら足掻いたところで無駄だよ……)
大いに混沌としている町の光景を、物陰から愉快そうに眺める人物がいた。
(このゴーレムたちを本当の意味で止められるのは、かつて災害級まで成長した我が子を殺したあの憎き人間――いや、化け物くらいだろうね。しかしながら、彼は遠征中。今頃、何も知らずに勝利の美酒に酔いしれているはず……)
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