第30話


「あああああぁぁっ!」


 山奥の村の酒場にて、大声を上げつつ自棄酒をあおるバルド。


「……こんな……こんなバカげたことがありえるものか……。またしても僕たちがクエストを失敗してしまうとは、不運にもほどというものがあるだろう! ゴクゴクッ……」


「バルド、お願いですから、もうそれくらいにしておいてくださいな。酒代もバカになりませんし。ねえ、エミルも何か言ってやって――」


「――うぅ……あたしも、お酒飲みたい……」


「ちょ、ちょっとエミル、本気なのですか? 普段は飲まないあなたまで……」


「……だって……醜い顔のこと、一時でいいから忘れたいもん……」


「はあ……それで顔の傷が癒えるわけでもないでしょうに」


「ういー……。シェリー、どうせ僕たちは、『聖域の守護者』に先を越されてクエストに失敗したんだ。このまま飲み続けたって……うえっぷ……別にいいだろうがよ……」


「バルド……それでも、ここで酔い潰れてしまえば、汚名を返上しようにもそれだけ先になるのですよ? 悔しくないのですか……? これで三度目の失敗ですし、正直、個人的にがあるのですが」


「……ん? シェリー、少し思うところだぁ? それはなんだよ……」


「……これはかなり言いにくいのですけれど、こういう閉塞的な状況だからこそ思い切って言わせてもらいます。ラウルを呼び戻しては……?」


「ほう。ラウルを呼び戻すのか――って……!?」


 その名前が出た途端、バルドが充血した目をかっと見開く。


「お、おい、バカなのか!? 役立たずだから追放したというのに、今更やつを呼び戻すなど……そんな屈辱的なことができるものか!」


「落ち着いてください、バルド。確かにラウルは無能だと私も思いますが、運は持っていたのかもしれません……」


「運は持ってるって……はっ、アホか! それどころかやつは疫病神だ。実際、地味な格好でチョロチョロと小汚いネズミのように動き回るやつの姿を見て、何度も吐き気を催したからな。そんなゴミを僕のパーティーに呼び戻すなんてもってのほかだ。二度とそんな戯けたことを口にしたら……シェリー、貴様も追放だからな……!?」


「…………」


「おい、なんだその不服そうな面は。何か文句があるのか……!?」


「……いえ、なんでもありません……」


 シェリーはバルドから顔を背けて黙り込むも、その目は鋭く尖ったままであった。


 なんとも重たい空気に支配される彼らだったが、それからしばらくして転機が訪れる。


 隣のテーブルを囲んだ者たちが、を話し始めたのだ。


「なぁ、聞いたか? 今さ、町がやべーことになってるらしいぜ」


「あぁ、知ってる。なんか町中で強力なモンスターが暴れ回ってるとか」


「そうそう。それもな、この目で見たわけじゃねえが……変異種って噂だぜ」


「なっ……!? お、おいおい、この村でもつい最近出たばっかりだってのに?」


「さっき、伝書鳩が村にやってきたかと思えば、冒険者らしき連中が青ざめながら一斉に帰っていったし、見当違いってわけでもなさそうだぜ……」


「「「……」」」


 話を聞いていたバルドたちが、お互いの顔を見やりながら一斉に立ち上がる。


「おえっぷ……ま、間違いない。緊急事態発生によって、ギルドから帰還命令が出ているのだ」


「そのようですね。まさか、短期間で変異種モンスターが二匹も発生するなんて……」


「ういー……確か、一カ月くらい前にも出ただろう。僕たちが倒したやつを含めれば三匹目。これは明らかに異常事態だから、おそらく最近のクエストはノーカンになる可能性が高い……」


「ってことは、このクエスト失敗は無効にできるのですね……?」


「無効どころか、その変異種を僕たちが倒せば、たちまちSS級に復帰できるかもしれないぞ!」


「それ、いいね……。みんな、今すぐ町に戻ろ……?」


「……よーし、今度こそ僕たち『神々の申し子』の力を見せつけてやる! 先を急ぐぞ!」


「「はいっ……!」」


 沈みがちだったバルドたちの様子に、久々に活気が戻った瞬間でもあった。


 だが、即座に村を発つという選択が更なる悲劇を生むということを、このとき彼らはまだ知る由もなかった。

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