第9話


 治癒使いのラウルが、臨時で組んだCランクパーティー『暗黒の戦士』を成功へと導いた日。


 時を同じくして、かつて彼が所属していたSS級パーティー『神々の申し子』の面々が、古代遺跡ダンジョンへと潜っていた。


 両手剣使いのバルド、片手剣使いのシェリー、それに魔術使いのエミルの三人である。


 彼らが受けたクエストの内容とは、ずば抜けた体力を持つエンシェントミイラを50体討伐せよというもの。


 クエストランクはSということで、SS級パーティーとしては格が一段落ちるものではあったが、現状だとギルドで受けられる最上のクエストはこれが限界だった。


「フッ……。僕たちとしては実にしょぼすぎるクエストだが、これ以上のランクはないのだから仕方あるまい。なあ、シェリーとエミルもそう思うだろう?」


「ええ、バルド。私もそう思います。本当は、SSランクのクエストがあればちょうどよいのですけれど……」


「だねえ。でもでもぉ、今日はがいないし、超快適な気分でやれそう!」


「ん、エミルよ、例の気持ち悪い男とは一体誰なんだい?」


「一体誰なのですか、エミル?」


「もー、言わせないでよぉ。それはねえ、使のお、ラ・ウ・ル!」


「「「ぶはっ……!」」」


 かつて所属していたメンバーの蔑称と名前が出た途端、一斉に噴き出す三人。


 彼らはしばらく腹を抱えて笑い合ったのち、満足した様子で討伐対象がいる区域へと向かい始めた。


「いやー、笑った笑った。ラウルのやつが汚物使いとは、言い得て妙だな」


「本当ですね、バルド。笑い死ぬかと思いましたよ。ただ、あの男の支援を受けたとき私はいつもばっちい感じがして体を洗いたくなったので、汚物使いというのは合っていますね」


「てか、あいつ自体が汚物そのものでしょ。幼馴染だってだけでも滅茶苦茶嫌なのに、一緒のパーティーだったってのが最悪。ホントあたしたち『神々の申し子』の汚点でしかないわ!」


 ラウルの悪口で大いに盛り上がる中、彼らは遂にエンシェントミイラがいるゾーンまで到着した。


『『『『『――ウゴオオォォッ……』』』』』


「フッ……。大分溜まってきたな」


 リーダーのバルドが、涼しい笑みを浮かべながら足の遅いミイラたちをゾロゾロと引き連れて歩く。


「ですねえ。もうそろそろ50匹になりそうでしょうか」


「ん-……ざっと見た感じ、まだ足りないんじゃない? あたしたちなら充分耐えられると思うし、もうちょっと集めようよ」


「うむ、そうだな。エミルの言う通りだ。一匹ずつモンスターを潰すよりも、集めて一気に倒すほうが楽だし、何よりゾクゾクするような快感がある――」


「「「「「――うわっ!?」」」」」


 やがて、一組のパーティーとすれ違った際にドン引きされるほど、『神々の申し子』はエンシェントミイラたちをこれでもかと集めていた。


「ふむ……。もう50匹は越えているだろうし、そろそろ倒す頃合いだな。あまりこういうところを見られてもマナー違反だと騒ぐ連中がいるから困るというのもあるが」


「そうですねえ。ま、私たちが泣く子も黙る『神々の申し子』だって知っていれば、報復が怖くて受付嬢に告げ口なんてできないでしょうけれど」


「まったくよね。なんせあたしたちは国に一つしかないSS級パーティーなんだから、ちょっとくらいズルしたって問題なんかないに決まってるわ」


 それからまもなくのこと。


 リーダーのバルドが立ち止まり、集めたモンスター群に向かって振り返る。


「さあ、来るがいい、化け物ども。この僕が一瞬にして殲滅してみせる……」


「格好いいです、バルド……」


「素敵よっ、バルド!」


『『『『『ウバアァァァッ……!』』』』』


 襲い掛かってくるミイラたちとすれ違いざま、大剣を横なぎに振るってみせるバルド。


「フッ。決まった――」


『『『『『――ウゴォ……』』』』』


「って、あれ……?」


 後ろからモンスターたちの呻き声が聞こえ、恐る恐る振り返るバルド。


 エンシェントミイラたちは余すことなく生存しており、その無数の鋭い眼光が光る。


「そ、そ、そんな。いつもなら一発で倒せるというのに、何故――」


『『『『『――ウジャアアアアッ!』』』』』


「ぐっ……ぐわあぁああっ! に、逃げろおおぉっ!」


「え、バルド、こ、これは一体どういうことです!? ちょっと待ってください!」


「お、置いてかないでえぇぇっ!」


 溜まりに溜まった大量のミイラたちに追いかけられ、バルドたちは逃げ惑うことしかできなかった……。

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