第10話


「「「はぁ、はぁぁっ……」」」


 満身創痍の状態となり、ポーションを飲みつつダンジョンから脱出するパーティー『神々の申し子』。


 SS級パーティーがこんな有様ということで、それを見かけたほかの冒険者たちが驚き合っていた。


「おいおい、あいつらが負けるなんて珍しいな」


「一体どんなすげーモンスターと戦ったんだ?」


「多分、災害級のモンスターでも出現したんじゃね?」


 だが冒険者らの予想と反し、『神々の申し子』が負けたのは、集団とはいえB級モンスターのエンシェントミイラだった。


「……あ、ありえない……。あ、あのモンスターはタフだが、僕たちの攻撃力はそれを遥かに凌駕しているはず……。ふぅ、ふぅ……。なのに何故、一撃で倒せなかったというのだ……」


「……うぅ。こ、こんなの、何かの間違いですよ、バルド……。ちょ、調子が悪かっただけではないですか……?」


「……そ、そうよ……けほっ、けほっ……。て、てか、さっきから高級ポーションがぶ飲みしてるのに、傷とか体力の回復がやたらと遅くない……?」


「そ、そういえばそうだな……」


「ですね……」


 エミルの言葉に同意しつつ、困惑した表情を浮かべるバルドとシェリー。


 いつもであれば、彼らが気付いたときには傷口は塞がっており、体力も回復しているはずであった。


 だが、今回は上等なポーションを飲んでいるにもかかわらず、未だに傷口からは出血し、ヘトヘトで歩くのもままならない状態だったのだ。


「……ふむぅ、あれだな……。やはり、今日は体の調子自体がよくなかったんだろう」


「そうですね、バルド。未だに体も重くて気怠いですし、それしか考えられません」


「そういや、ちょっと熱っぽかったかも……?」


 三人はしばし顔を見合わせると、納得した様子でうなずき合った。


「……これも全部ラウルが悪い。あの男がいなくなったことでホッとした余り、僕たちは体調を崩したのだ……」


「バルド、一理ありますね……。あるいは、あの男の呪いのせいでしょうか?」


「あ、シェリー。それもありえるね。きもっ」


「フッ。無能がいくら呪ったところで無駄な足掻きさ。今日はたまたま具合が悪かっただけ……ってそうだ。が浮かんだぞ……」


 痣だらけの顔をほころばせるバルド。


「……バルド? その考えとはなんでしょうか?」


「それってどんな考え? 早く教えて、バルド……!」


「まあ二人とも、落ち着きたまえ……。災害級のモンスターと戦い、倒したためにこうしてボロボロになったと受付嬢に伝えればいい。そうすれば、僕たちの依頼の失敗も無効ノーカンにできるかもしれない」


「さすがバルド。ラウルとは頭の出来が違いますね」


「ホント。さすがバルドね! てかシェリー、あんな汚物使いと比べないでよ!」




 ◆◆◆




「ん、あれは……」


 銀貨一枚を手に宿へ向かって歩いていたときだった。


 前方のほうにを見つけて、俺は思わず物陰に隠れることになった。


 まさかと思って二度見したが、やはりそうだ。


 ズタボロの状態ではあるものの、長く接してきたからわかる。あいつらはバルド、シェリー、エミルの三人で間違いない。


 それにしても、SS級パーティー『神々の申し子』があそこまでこっぴどくやられるなんてどう考えてもおかしい。最近まで所属していたからこそわかる。一体何があったっていうんだ?


「……はっ……」


 まさか、災害級のモンスターが発生したんだろうか? 確か、あっちは古代遺跡ダンジョンがある方向だよな……。


 でもそれなら、もっと怪我人が続出して大騒ぎになってるはず。ってことは、あんな状態になるほど長時間ダンジョンに籠もってたとしか思えない。


 クッソ……。あいつら、いつもすぐ飽きたとか言って切り上げるくせに、俺がいなくなったことがよっぽど快適だったんだろうな。


 ただ、元所属パーティーだからあんまり悪く言いたくない。見た感じ、ポーションを切らしてるみたいだしこっそり回復してやろう。


 そういうわけで俺は自分の仕業だとバレないよう、そっと彼らに近付いて『自動体力回復魔法』と『修繕魔法』をかけ、その場をあとにした。


 これでバルドたちは、気付かないうちにいつの間にか傷や体力が全快するだけでなく、装備の破損や服装の乱れさえも直っているはずだ。

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