第2話


「ねえ、ちょっと見てよ、あの人」


「顔が青白いね」


「うわっ、まるで亡霊みたい……」


「ってか、彼って確か、超有名パーティーの人じゃなかった?」


「あ……もしかして『神々の申し子』のラウル!?」


「まさかぁ。顔が似てるだけでしょ。そんなに凄い人がこんなところに一人でいるわけないし」


「「「「アハハッ!」」」


「…………」


 そのまさかだ。


 俺は『神々の申し子』パーティーから追放されてすぐ、冒険者ギルドへフラフラとやってきたんだ。


 いずれ、無能を理由に追い出されたことも他の冒険者たちの耳に入るだろう。いい笑い者だ。


「――あれ、ラウル様っ? 今日はお一人ですか?」


 受付嬢のイリスが驚いた顔を見せる。


 ちなみに俺がここへ来たのは、クエストの依頼を受けるためじゃない。一人ぼっちになってしまったし、もう冒険者を辞めてしまおうと思ったんだ。


「ああ。ちょっとわけがあって……」


「どうされたんですか?」


「…………」


 言葉が出なかった。思わず泣きそうになり、涙を堪える。


 無能扱いされるのはまだいい。まさか、いつの間にかあそこまで嫌われてたなんてな。それも、幼馴染のエミルにまで……。


 そんなこともあり、人を信じられなくなっている自分がいたんだ。昔から親切にしてもらっている顔馴染みのイリスでさえも。


「ラウル様……よかったら、事情を話してもらえませんか? 顔に出るお方ですから、言い逃れはできませんよ?」


「……あ、ああ。実は……」


 俺は一瞬迷ったが、彼女にこれまでのことを伝えることにした。どうせ冒険者を辞めるにしても、それが礼儀だと思ったんだ。


「――そんな、ことが……」


 イリスはかなりのショックを受けている様子だった。


「すまない。こんなしょうもないことを話してしまって」


「…………」


「すぐにでも冒険者を辞めて、この町から出ていくつもりだ。だからイリス、もう俺のことは忘れてほしい。最初からいなかったことにしてほしいんだ……」


「酷い……」


「……ああ、酷いよな。俺は酷いやつだ。だから追放されたんだと思う。それじゃ」


「待ってください!」


「……ああ。最後に思う存分、罵声を浴びせてくれ。俺は無能だ、どうしようもない役立たずだ……」


「そんなことはありません。どうして辞めちゃうんですか? ラウル様は私に対して、あんなに熱心に冒険や治癒について語ってくださったじゃないですか!」


「え? でも、今、酷いって……」


「それは、ラウル様を追放した方々への言葉です。私を置いてここから去ろうとするラウル様も、そりゃ酷いですけど……」


「え、私を置いてって、それってどういう……」


「い、いえっ、なんでもありません!」


 顔をほんのりと赤く染めるイリス。風邪気味なんだろうか?


「とにかく、俺は無能らしいから追放されても仕方ないよ」


「いえ、ラウル様は自己評価が異様に低くて謙虚な方ですから、そういう風に思ってしまっておられるだけです」


「……そうだといいが、身近にいた仲間や幼馴染にすらそうは思われてなかったしな……」


「お願いですから、気をしっかり持ってください。彼らはあなたの本当の力に気付いていないのです」


「本当の力?」


「はい。普通の治癒使いは回復しかできないのに、ラウル様は違います。支援使いとしての力も持ち合わせてますよね。それって、考えられないことなんですよ。そんな偉大な人を追放した『神々の申し子』はすぐに落ちぶれるでしょう」


「……イリス、ありがとう。こんなダメな俺を慰めてくれて」


「んもう。ラウル様ったら、もっと自信を持ってください。それと、冒険者を辞めちゃうなんていう言葉も撤回してくださいね?」


「あ、ああ。そうするよ。でも、一人になったしこれからパーティーを探さないとな」


 冒険者にリスクを回避してもらうという意味で、ソロでは依頼を受けられないようになっているんだ。


「はーい、今すぐ探してみますね!」


 イリスが意気揚々と書類を捲り始める。本当にいい子だ。そんな彼女まで疑ってしまった俺って……。


 お、彼女の手が止まったが、冴えない顔に変わっている。どうしたんだろう。


「一つだけ、治癒使いの仲間を臨時で募集しているパーティーがありました。ランクはCで普通なのですが、ちょっと問題ありなパーティーのようでして……」


「問題あり?」


「はい。私は彼らについては担当していないので詳しいことはよくわからないのですが、普段からよく揉め事を起こしているパーティーのようです。注意マークがついちゃってますから」


「それでいいよ」


「え、本当によろしいのですか?」


「ああ。もう選べる立場じゃないし、今の俺にはぴったりだ」

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