第22話
「――と、こういうわけでね……」
「なるほど……」
エレイド山へと向かう途中の馬車の中。
俺はリーダーのルエスから、いかにギャンブルで身を滅ぼしてきたかという、割りと重い話を聞いている真っ最中だった。
彼のギャンブル熱が限界点に達したときには、もしものときにとパーティーメンバー全員で貯めておいた大事なお金も使い果たし、小高い丘にある例の宿舎を売り払う寸前までいったらしい。
その時期っていうのが、ちょうど俺が以前所属していたパーティー『神々の申し子』が災害級モンスターを倒し、SS級まで上り詰めたときだっていうから、まさに二組のパーティーは天国と地獄という対照的な状況だったわけだ。
当時の『聖域の守護者』は災害級のモンスターに先に挑戦するも敗北し、ライバルパーティー『神々の申し子』の後塵を拝した影響が大いにあって、失意のどん底にいたルエスがギャンブルに逃げてしまった格好なんだろうな……。
「そのとき、僕はもう何もかも終わりだと覚悟してメンバーに言ったんだ。もし僕がまた性懲りもなくギャンブルをやるようだったら、この『聖域の守護者』パーティーを抜けてくれと。そして、もっといいパーティーに入ってほしいとね……」
「…………」
俺は息を呑んでルエスの話の続きを待つ。一方でユリムとカレンは感動したような表情をしつつも、当事者なためか少し照れ臭そうだった。
「そしたら、ユリムは泣き出して言葉にならず、カレンは涙ながらにこう言った。『ギャンブルはやめなくていいし、あたしたちの居場所はここしかないからいさせてほしい』と。それで、僕は再起することができたんだ。この身を滅ぼしていたのは大好きなギャンブルじゃなく、パーティーの問題から逃げていた自分のほうだって気付いてね……」
ルエスは時折声を詰まらせながらも話を続けた。
「ただ、もう一人の仲間……治癒使いのウッドには何も響かなかったらしくて、リーダーがこうだからと以前にも増して遊び歩くようになってしまった。僕にもギャンブルに嵌りすぎていた負い目があるから大目には見てたんだけど、逆に甘やかすことになってしまったみたいだ……」
「へえ、そんなことが……」
そこからウッドという人物を手放す流れになったんだな。それでもルエスは所々に憂いを覗かせていることから、そのことを今でも引き摺っているようにも見える。
バルドがルエスみたいに思いやりのあるリーダーだったらよかったのにな……っていうか、既にこうして良い人に出会えたんだから別にいいんだが。
それから数時間後にエレイド山の麓に到着した俺たちは、ここからは獣道が続くってことで徒歩で進むことに。
ん? ほどなくしてルエスが急に立ち止まった。
「――あ、あれ……? 妙に体が軽いね。麓に着いてしばらく歩いたら一旦休もうと思っていたのに、まったく疲れがないなんておかしい……。みんなはどうかな?」
「私も……全然大丈夫なのです……」
「あたしも、疲れがあるどころかピンピンしちゃってる! いつもならすぐ体が重たくなるのに、やたらと足が軽くて気分もなんだか爽快だし、不思議ね……」
なんだ? みんながはっとした顔になったと思ったら俺のほうをじっと見つめてきた。もしかしたら余計なことをしちゃったかもしれないし、一応説明しておく必要がありそうだ。
「あぁ、それならみんなが馬車を下りてから、『自動体力回復魔法』、『筋肉強化魔法』、『士気向上魔法』を全員分、同時にかけておいたよ」
「「「……」」」
「ん? みんなどうした?」
「……し、支援使いの中でも超上級と呼ばれる、三つの支援魔法を、治癒使いが使えるだって……?」
「……そ、それも、複数同時にです……」
「……ちょっと、一体どうなってるの? この人……」
「あ、もう一つ忘れてた」
「「「っ!?」」」
「『忌避魔法』も一緒にかけておいたから、ここに棲息しているモンスターは寄ってこないし、目的地の山奥の村まではスムーズに進むことができるはずだ」
「「「……」」」
もちろん、それは普通のモンスターに対して効果があるもので、変異種には通用しないが……って、みんな唖然としちゃってるし、俺ってやつはまた偉そうに当然のことを語ってしまったみたいだな。
これくらいのことで満足せず、また追放されないように自分を向上させていかないと……。
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