第21話


「……顔、あたしの顔……綺麗な顔、返して……」


「エミル……」


「ったく、しつこいな、エミルは……。顔顔顔って、お前それしか頭にないのか? 僕たちは今それどころじゃないだろう!」


 冒険者ギルドの一角にて、SS級からS級に降格したばかりのパーティー『神々の申し子』は、かつてないほどの悲愴感に包まれていた。


「バルド……あなたの逸る気持ちもわかりますけど、次の依頼を受けるにしても、せめてエミルの心身の傷がもう少し回復してからにするべきでは?」


「いや、シェリー、それこそ顔くらい後でどうにでもなるだろう! とにかくすぐにでも挽回しないと怒り狂って死にそうだから、早速を受けるぞ!」


「例の依頼?」


「シェリー、お前までどうかしてしまったのか……!? ほら、ここで話題になってたから僕たちも見ただろう。エレイド山に変異種のモンスターが出たからそれを討伐してほしいっていうS級の依頼だ!」


「あ……それですか。でも、私たちは二回続けてクエストを失敗してしまったわけですし、正直このまま受けるのは怖いのですが……」


「それなら心配はいらん。まぐれの失敗が二度続いただけとはいえ、既に手は打ってあるのだよ」


「……バルド、本当に心配はいらないのでしょうか?」


「おい、リーダーの僕を疑うのか!?」


「だって、今までのこともありますし――」


「――三度目の正直だ! 今度こそ雑魚どもに僕たちの力を見せつけてることができるだろう。それくらいのを用意しているから楽しみにしておけ。さあ、遠征になるから買い出しに行くぞ!」


「あ、ちょっと、バルド……!? んもうっ、いくらなんでも急ぎすぎです! ほら、エミルもぼんやりしてないで早く行きますよ……!」


「……顔、顔おぉ……」


 酷く慌てた様子で冒険者ギルドをあとにするバルドたち。そこにかつてのSS級パーティーとしての面影は微塵もなかった。




 ◆◆◆




「――さて、帰るか……」


 エレイド山へ遠征に行くための買い出しが終わり、俺はこれから『聖域の守護者』のパーティー宿舎へと戻る予定だった。


 リーダーのルエスは『雑用をラウル君に任せるなんてとんでもない』と言ってくれたが、こういうことは新人の俺にやらせてほしいと逆に頼み込んだ格好だ。


 ちなみに購入した品物に関しては、圧力を活性化した『圧縮魔法』で全部まとめてコンパクトにしてあるので持ち運びはぐんと楽になっている。


 ん? あそこにいるのは、まさか……。


 思わず物陰に隠れて様子を覗き込んだら、やっぱりあいつら――『神々の申し子』パーティーだった。なんか荷物がいっぱいだし、疲れているのか表情も辛そうだ。彼らも買い出しだろうか。


 というか、よく考えたらパーティーを追い出された自分が隠れる必要なんてないんだよな。やっぱり、追放されたトラウマによるものか。


 怖い怖いと思うから余計に怖くなるんだ。そういうわけで、俺はトラウマを払拭するためにも積極的に声をかけることにした。


「やあ、バルド、シェリー、エミル、こんなところで会うなんて奇遇じゃないか」


「「「っ……!?」」」


 なんだ、やたらとショックを受けたような反応をされたぞ。


「っていうか、背格好からしてエミルだと思うんだが、なんで仮面なんか被ってるんだ?」


「きっ……貴様には関係ないだろう!」


「そうですよ。ばっちいですし、声をかけないでくれませんかね?」


「……ばっちい……顔……」


「お、おいおい、折角会ったのにばっちいって、そんな言い方はないだろ――」


「――ねえ、見て見て、あそこにいるの、噂の『神々の申し子』だよ」


「ホントだ!」


 ん? 周りに野次馬が集まってきてるぞ。まさか、また俺が追放された件について冷やかすつもりか?


「立て続けにクエストを失敗して赤っ恥掻いちゃったんだって」


「ウッソー!? そういや、あそこにいる治癒使いのラウルって人を追放してからだよね?」


「ってことはぁ、追放したほうの見る目がなかったんじゃない?」


「それありえる! ププッ……」


「「「むぐぐっ……」」」


 なんだって? バルドたちが二度クエストに失敗しただって? それがもし本当なら、SS級からS級に格下げされたってことだよな。でも、そんなのありえるのか? 確かに追放されてしまったとはいえ、かつて所属していたパーティーがこんな事態になってるなんて。


「な、なあ、バルド、シェリー、エミル。今の噂、本当なのか? 何かの間違いだろう? 疲れてて調子が出なかったとか? なんなら俺が回復して――」


「――う、うるさい! 貴様には関係のない話だろうがっ!」


「そ、そうですよ。いい加減鬱陶しいですよ!?」


「……うざい……か、顔……」


「…………」


 うるさい、鬱陶しいという罵倒に加え、幼馴染に俺の顔がうざいとまで言われてしまった。そこまで言うか? こうして怒鳴る元気もあるみたいだし、心配して損したな。彼らのことはもう放っておくとしよう。

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