第46話


「「「「おーい……!」」」」


「あ……」


 失神状態のクレスを抱えた俺が地上へ下りると、が一斉に声を上げながらこっちへ駆けつけてくるのがわかった。


 あれは……誰だと思ったら、かつて臨時で組んだ『暗黒の戦士』パーティーのダリアたちじゃないか……。彼女たちしか冒険者パーティーはほかに見かけないし、問題児扱いされてたのに命懸けで町を守ってくれてたんだな。


 お、イリスも一緒にいると思ったら、今にも泣き出しそうな面持ちになっていた。彼女にも本当に辛い思いをさせてしまった。


 ん、一人だけ知らない面子がいて、やたらと緊張した様子で俺の前に出てきた。


「……わ、わ、わしは、治癒使いのオズと申す者ですじゃ! ラ、ラウル先生、わしを是非ともですな、あなた様の一番弟子に――イダッ!?」


「――オズ、そこをどけっ! ラウル、会いたかったぜ!」


「ラウルさん、久々っす!」


「ラウル……お久。てへ……」


「あ、あぁ。ダリア、セイン、リシャール、本当に久々だな。それにイリス、無事でよかった……ってそうだ、クレスのことをどうか頼む」


「おう、大切に預かるぜ。こいつ、無茶しやがって……って、ラウル、その辺に変異種ゴーレムとその飼い主がいるから気を付けてくれ!」


「ああ、それなら心配はいらない。ゴーレムの飼い主――ハンスだっけか。あの男なら空気を読んでくれるはず。直感力と共感力を活性化させた『過去視魔法』でクレスの記憶を読み込んだとき、ハンスの性格が大体わかったからな」


「「「「「……」」」」」


 なんだ? みんな呆然とした顔になってる。さては俺、また何か変なことを言っちゃったかな……? って、今はそれどころじゃなかった。


「ただ、クレスのやつはハンスと違って空気を読んでくれなかったな。格好つけて死のうとしてたところはいかにもあいつらしいが、あとで叱ってやらないと……」


「……あ、あの、ラウル様……? クレス様は助かるんでしょうか……」


 イリスが恐る恐るといった様子で訊ねてきた。まあその気持ちもよくわかる。クレスは死んだように眠っていて、血色が悪いだけでなく呼吸も著しく弱い状態だからな。


「いずれは意識が戻るから大丈夫だ、イリス。ただ、そのためにはしばらくこのまま眠らせておく必要がある。無理して今すぐにでも治そうとすると、記憶がなくなってしまう恐れもあるから」


「余程酷い状態だったんですね。でも、いずれはクレス様の意識が戻るならよかったです……」


「ああ。みんなでクレスを守ってやってくれ。それじゃ、俺はそろそろ行くよ。向こうのほうで仲間を待たせてるから――」


「――お待ちくださいっ!」


「うぇっ……?」


 思わず変な声が自分の口から飛び出てしまった。背中を向けた途端、イリスに抱き付かれたんだ。


「イ、イリス……?」


「ラウル様……私、あなたのことをずっと待ってたんですよ……」


「……そ、そうか……って、む、胸が当たってしまってるんだが……」


「わざとです……」


「…………」


 イリスのサービス精神が旺盛なのはわかったが、こんなときにやるんだから本当に不思議な子だ……っていうか、さっきからリシャールが大鎌を振り上げて『無……無……』とか呟いてて怖いんだが、一体どうしたんだろう……? しかもダリアたちが青い顔で制止してるし、イリスの不思議さが伝染しちゃったのかな?


「イ、イリス、そろそろ行かないと……」


「……はい。ラウル様、どうかご無事で……。あの、その前にこっちを向いてくださいませんか?」


「え? むぐっ!?」


 目を瞑ったイリスが顔を近付けてきたかと思うと、その唇が俺の口に当たってしまった。


「イ、イリス……?」


「ラ、ラウル様が鈍感なら、私はもっと強引に行きますから、覚悟してくださいっ……!」


「…………」


 イリスの宣戦布告みたいな強い台詞が、妙に愛おしく感じてしまった。どうやら、俺にまで彼女の不思議さがうつっちゃったみたいだ……。

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