第43話


 俺たち『聖域の守護者』パーティーは、『筋肉強化魔法』と『自動体力回復魔法』をかけた変異種カラスの背中に乗り、とんでもない速度で町へと向かっていた。


 いいぞ、この調子なら近いうちに到着するはず――


「――うっ……?」


 胸部に激痛が走り、俺は思わず声を出してしまった。


『人間よ、どうした……?』


「……い、いや、なんでもない。急に胸のあたりに痛みが走ったんだが……もう収まったみたいだ」


『ふむ、何事もなかったか。それが一時的な痛みならばよいのだが』


「……ラ、ラ、ラウリュ、君っ……だ、だ、だだっ、大丈夫、なの、かい……?」


「「「「……」」」」


 猛スピードで飛行中なせいか、みんながドン引きするほどルエスが壊れ気味だが、一応これでも俺の治癒魔法で回復したほうなんだ。少し前まではほぼ仮死状態だったからな……。


「ラウルさんのことも心配ですけど……ルエス、あなたのほうがよっぽど状態が悪そうなのです……」


「あはは。ユリムも心配性ねえ。ルエスの状態なら、向こうへ着いたら治るだろうから問題ないわよ。それよりラウル、具合は本当に大丈夫なの?」


「ああ、原因はわからないが、もう全然なんともないし大丈夫だよ、カレン。それより、このまま行けば最低でも一日くらいかかるところが、たった数時間で町へ行けるわけだから、俺たちを乗せてくれてる変異種カラスに礼を言わないとな」


『いや、ラウルよ。化け物同士、礼など不要だ』


「ははっ……」


 まったく、このカラスはどこでそんなお世辞を覚えたんだか。俺なんてただの凡庸な治癒使いだっていうのに。かつて自分の相方でもあった高名な大鎌使いのほうがよっぽど化け物だ。


 あいつは何故かいきなり冒険者を引退してしまったんだが、今頃何をしてるんだろうな。


 町のほうへと順調に近付く中、俺の頭の中にが浮かんだ。


「そういや、一つ気になることがあるんだが、訊いていいか? 変異種カラス」


『なんだ、人間よ』


「あのとき、すぐに町に戻ったほうがいいって教えてくれたが、それってつまり、あんたと同じ変異種モンスターが町に出たことを知ってたってことだよな」


『……うむ。私に大いなる力をくれた者がいて、その人物が教えてくれたのだ。錬金使いで、名をハンスとかいったか。その者も、私には一目でわかった。見た目は人だが、中身は化け物だと……』


「錬金使いのハンスだって……? 見た目は人間なのに中身は化け物って、一体どういうことだ……?」


『一つは、人間離れした能力を有しているということ。もう一つは、人間でありながら人間に敵対する、化け物のような心を持っているということだ』


「なるほどな……」


『何故、人間でありながらそのような心を持ってしまったのか、それは私にはまったく理解できないが、ハンスが人間たちに敵愾心を抱き、変異種を意図的に作り出すという異常な才能を持っていることだけはわかっている。ラウル、お前でも気を付けたほうが賢明だろう』


「あぁ……っていうか、なんであんたはそいつじゃなくて俺たちの味方をしてくれるんだ?」


『……それはな、その者の持つ深すぎる闇に対して、私は憐れみを感じていたのだ。本当の意味で助けるためには、ラウルよ、人間離れしたお前の治癒力が必要だと考えた』


「……おいおい。見え見えのお世辞もそうだが、優しいんだな」


『化け物の私を助けたお前に言われたくないわっ』


「それはそうか。ははっ……」


 相変わらず口達者なカラスだ。


 それにしても、錬金使いのハンス、か……。変異種を意図的に作り出す力があるというのは、確かに化け物染みた凄まじい才能といえるだろう。


 ということは、一カ月ほど前に出現した変異種モンスターもそいつが生み出した可能性があるわけか。


 変異種カラスを誕生させて冒険者たちを山奥に誘き出し、その間に町を襲う計画も単純だが抜け目がない。


 もしハンスに唯一ミスがあるとしたら、このジャイアントレイブンを変異種にしてしまったことだな。それが本当の意味でその人物を救うことに繋がるなら、禍々しい闇の底で発生した最後の希望といったところか……。

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