第48話
「フフッ……遂に……遂にこのときが到来したんだね……。冒険者のトップに君臨するラウルを倒し、我が子の仇を取るときが……」
「…………」
俺たちを前にして、感慨深そうにしみじみと語り始めた錬金使いのハンス。おいおい、やる前からもう勝った気でいるっていうのか……。
「な、なんなんだい、あのハンスとかいうやつは。モンスター級のラウル君に対して勝利を確信したみたいな態度、ふてぶてしいってもんじゃないよ……!」
「本当にその通りなのです……。ラウルさんを怒らせたら……どうなっても知りませんよ……?」
「温厚なラウルが怒る姿とか、怖っ……! あたし、想像するだけで気絶しちゃいそう!」
「ははっ……」
黒幕のハンスを前にして、ルエスたちもさすがに緊張していたのか黙っていたが、冗談を言う余裕が出てきたみたいでよかった。
まあどんな方法かはともかく、ハンスは意図的に変異種を生み出せるわけで、錬金使いとして天才的な能力を有しているのは間違いないし、あそこまで圧倒的な自信があるのも理解できなくはない。
ちなみに、この男の言う我が子っていうのは、今から一カ月以上前に町に出現し、甚大な被害を及ぼしたスライムの変異種のことだ。
スライム自体は最下級のD級モンスターで、無機質系の中でもとにかく様々な面において弱いことで有名だ。
それでも、俊敏性だけでなく擬態能力や繁殖能力に長けているからこそ、その部分をより強化した変異種スライムはしぶとく生き残って進化し、SS級――災害級モンスターとなって多くの人々の命を飲み込んだ。
当時はその衝撃の大きさからスライムインパクトなんて呼ばれ方をしたもんだ。冒険者たちからしてみたら、一番弱いはずのスライムに蹂躙されたわけだからな。
当時、俺の所属していた『神々の申し子』パーティーがそんな災害級スライムを倒せたのは、決して元が弱かったからではない。スライムというモンスターを一切侮ることなく、その特性を事前にこのうえなく研究したことが大きかった。
そのおかげでやつの自慢の吸収能力を逆に活性化させることを思いつき、太らせて俊敏な動きを鈍らせたのち、『覚醒魔法』をバルドたちに使って一点集中攻撃によってなんとか破裂させることに成功したんだ。
ただ、それでも決して平坦な道のりじゃなかった。進化した変異種スライムは消化能力も桁外れに高かったため、冷や汗が止まらない程度には時間との戦いでもあったことを未だに鮮明に覚えている。
バルドたちはそのとき、俺に対して『楽ばかりしてないでお前も攻撃しろ!』と激しく叱責してきた上、シェリーとエミルにも呆れ顔で溜め息をつかれたが、もし自分がサポートに徹することなくあらゆる防御魔法を駆使しなかったら、倒す前にみんな進化スライムの強力な消化液で骨と化していたことだろう。
お、ハンスの前にいる変異種ゴーレムが分裂して数を増やしていった。いよいよ戦いが始まるようだ。
「さて……感動の再会を果たしたばかりだけど、そろそろ始めようか、ラウル。あのときサポート役に徹した君の判断は見事だったよ。けど……今回僕が作り出した変異種モンスターにはどう考えても隙がない。だから、必ずやあの子の仇を取ってくれるはずさ……」
『『『『『ウゴオォォォォッ……!』』』』』
変異種ゴーレムが吼えるとともに一気に分裂するのがわかる。
「ルエス、ユリム、カレン、俺は本体をやるから、残りの分裂したほうを頼んだ」
「よし、わかった、ラウル君! 残りのゴーレムは僕たちに任せてほしい!」
「ラウルさん、本体のゴーレムさんをよろしくお願いしますです……」
「ラウル、よろしくね。増えたほうの偽物ゴーレムはあたしたちが片付けてみせるわっ!」
ルエス、ユリム、カレンから次々と頼もしい声が返ってくる。彼らのおかげで俺は本体の変異種ゴーレムに集中できるんだから本当にありがたい。
さて、ハンスの生み出した変異種ゴーレムとやらがどれほどの強さを誇っているのか、とくと味わってみるとしようか……。
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